【患者3】の告白

 はい。諏訪部洋子。主婦、三十九歳です。

 東條…奈々美さん? で、合っていますか?

 幸せな家族が妬ましい気持ち、私にはちょっとわかります。……私もそうだったの。


 十年前、私は我が子を死産したの。二年くらい不妊治療を続けてやっと授かった愛しの我が子。

 空っぽになってしまった身体で、産婦人科———ああほら、隣町の。花園レディースクリニック、知ってる? そこにしばらく通院を続けたわ。


 あんな場所、私には地獄だった。待合室には幸せそうな妊婦さんや母子がひしめき合っていて、なんだか、私一人だけが暗い世界に隔離されているみたいな気分。奈々美さんにもわかるかしら。


 けど一人だけ、私と同じ立場の子がいたの。その子———高校の制服を着ていたから、待合室じゃ正直浮いてた。

 最初は、生理痛の治療かなって思った。あれくらいの子には珍しくないでしょ。


 でも、隣で付き添ってる母親が一言もしゃべらなくて、その子もずうっと俯いてて。あ、これは深刻な事情があるってすぐに気がついた。だから、あまり見ないようにしたけど、わたしは正直ちょっと安心したの。


 仲間を見つけたって。暖かくて素敵な花園に、陽の当たらない場所で互いに肩を抱き合って静かに慰め合える仲間を。


 しばらくして、同じ顔をネットで見かけた。


 ———県立西ノ里高校の生徒、いじめで自殺、って。


 最近のいじめって———とはいってももう十年も昔のことだけど———本当にひどいのね。自殺したあとも、同じ学校の子に顔写真をばら撒かれたりするんだから。恐ろしくて詳しくは調べなかったけど、私が勝手に想像した事情よりもはるかに暗くて重たいものを、あの子は抱えていたんだと思う。


 名前も住んでる場所も知らないけど、西ノ里高校の前を通るときは、少しの間手を合わせて、彼女のことを悼むようにしてる。


 彼女のような悲劇が、もう二度と起こらないように。私は積極的にこの活動を支援したいと思ってるわ。

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