2
ついさっき、ザックにきつくあたってしまったばかりだった。
うう……どんよりと気分がしずむ。
パパがいないことも、夢が叶わないことも、心をうちのめすにはじゅうぶんすぎる。
どれだけ気分が晴れたとしても、きっとその事実が頭によみがえるたびに、わたしは悲しくなってしまう。
それでも――強い心を持って受け入れなきゃダメだから。
〈ブリペット島〉を出た時、わたしはザックとそう約束した。けれど……、
(わたしのことを利用していた、っていうのはど~~しても受け入れたくない……!)
ザックを支えてあげたくて力をかしていたんだもん。
利用されてたわけじゃないっ。
するとザックが、まるで反抗期の子供をなだめるようにわたしに言った。
「海賊をやめてほしくなかったのは、お前に船をおりてほしくなかったからだ。仲間に船をおりられてよろこぶ船長なんていないだろ?」
「……たしかにそれはそうだけど」
なんか、いいように言いくるめられている気がする……。
どんな顔をすればいいのか分からなくなり、わたしは顔をすぼめた。
わたしのびみょうな反応を見て、ザックは「やれやれ」と首をふる。
「そんな顔してるけどな、こっちだってお前に利用されてたんだぞ」
「ええ? わたしがいつザックを利用したって言うのっ?」
思わず言葉に力が入る。
だってわたしそんなことしてないもん! とんだ言いがかりだ!
「海に出るため。ジルの船にのるため。――ほら、オレのこと利用している」
ザックの言葉に、わたしは唇を引きむすんだ。
(あれ~~……ほんとだ。わたしもしっかり利用してる……)
冷や汗ダラダラ。ごまかしようもなく、わたしはそろ~~りとザックから目をそらした。
「ふんっ。これでおあいこだな」
ザックはケラリと笑った。そして、
「お、そうだ。メル、ちょっとまってろ。いいものを持って来てやる」
そう、そそくさと走ってどこかに行ってしまった。
いったいどうしたんだろう?
わたしは、ふたたびザックを視界に入れた。
が、ザックの足は速いうえに、体はとても小さい。すぐにザックを見失ってしまう。
それから少しして「またせたな」と、ザックが息をはずませながらもどって来た。
ザックは、なにやらサビついただえん形のロケットペンダントをかかえている。
「聞いておどろくな! これはジルの――お前のパパの宝物だ!」
「え――パパの?」
〈海賊の眠る島〉には死んだ海賊の魂と、その海賊の一番大切な宝物が流れつく。
そう、つまりこれが、パパの一番大切な宝物。
高そうな物でもなければ、きれいって言えるほどの物でもない。
使い古されたペンダント。
「アイツが肌身はなさず命よりも大切にしていた物だ。今まで一度も中を見たことはなかったが、さっき見て分かった」
ザックの言葉を聞きながら、わたしはペンダントを受けとる。
カチリとペンダントを開けてみれば、中にはセピア色の写真がはめこまれていた。
ほほえみをうかべている女性が、まだ生まれたばかりの女の子をだきかかえている写真だ。
とってもきれいな女性だった。
髪は長く、ウェーブがかったくせっ毛で……なんだかわたしの髪の毛とそっくり。
女の子は、まだ髪の毛もうすく、歯も生えそろっていない。
だけどその女の子の目鼻立ちには、わたしの面影があって……。
「前にヘッドさんに見せてもらったことがあるの。わたしの小さいころの写真。……この写真にうつってるの、わたしと、わたしのママだ……」
「ああ。お前はアイツの一番大切な宝物だったみたいだな。よかったな」
わたしは、言葉が出てこなかった。
パパの〝父親の手〟にふれている時、わたしは自分が誰よりもパパの一番である自信が持てた。
でも、その手がないと不安でしかたがなかった。
だってパパには、守らなきゃいけない者、大切な物が、あまりにもたくさんありすぎたから。
「そのペンダント、メルが持ってけばいい。ジルもよろこぶ」
「うん」
ペンダントをにぎりしめていた手で、わたしは目元をぬぐった。
「いちおう言っておくが、オレはお前のパパがわりにはならないぞ。オレは子守りなんてごめんだからな」
念のためと言わんばかりに、ザックが言った。
「わたしだって、こんなネズミがパパだなんてごめんだよ」
「オレもお前みたいなかわいげのない娘はごめんだ」
ザックはバカにしたように言う。けれどその言葉にとげは感じられない。
「よし、メル。マーレイが起きるまえにここを脱出するぞ」
わたしはペンダントを首にかけながら、「だけどザック」と眉をひそめた。
「出口なんてどこにも見あたらないよ?」
「いいや、出口ならあったさ。――ほら。あの滝だ」
ザックが指さしたのは、わたしたちが落ちてきた滝だった。
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