従兄弟同士

ぱぴぷぺこ

1.サナトリウム

第1話 9歳 生き別れ (上)

 目が覚めたら、まわりがまっ白だった。


 天井も、壁も、ベッドのシーツも、ぜんぶ白くて、どこも同じに見えた。


 起き上がってまわりを見ると、白い服を着た女の人の後ろ姿が見えた。


 誰だろう。看護師さん?


「あの……」


 話しかけようとしたら、いきなりむせ返った。


 えっ、なんで……しゃべれない?

 のどが痛い。

 痛いよ、たけしちゃん。


 すると、女の人が気づいて話しかけてきた。


「Hey, you’re awake!」


 黒い女の人。外人さん? 言葉がわかんなかった。


 ここ、どこ? 病院?


「……武ちゃんは?」


 やっと言えたのに、変な顔で笑って、どっか行っちゃった。


 ベッドが六つある広いお部屋。でも誰もいない。

 従兄いとこの、武ちゃんはどこ?


 俺、どうしてここにいるんだろう。

 ベッドで寝てて……そして……。


まさる! 起きて!  火事だよ!」


 そうだ。夜中に武ちゃんに起こされたんだ。


 お部屋がとっても暑くて、頭もぼーっとしてて、それから……えっと、そのあと……?


 どうしても思い出せなくて、まわりを見た。


 もう、誰もいなかった。


 見えたのは、窓の外の真っ白な雪だけだった。


 ◇


 目が覚める前には、お家にいたんだ。


 お外にはいっぱいの木と、鳥もたくさん鳴いてた。寒かったけど、雪はなかった。


 でも、ここは違う。雪しかない。


 お母さんと武ちゃんと、叔父おじちゃんと叔母おばちゃん。

 みんなどこなの?


 誰も……教えてくれない。


 なんか、急に怖くなった。

 お布団を引き寄せて、ひざ抱えて、壁に背中つけて、じっとしてた。


 喉、痛い。

 でも、声を出そうとすると、胸も痛かった。


 痛いのに、武ちゃんがいない。

 涙が出そうになった。


 そしたら、なにか音が聞こえてきた。

 なんの音? 誰かの足音なのかな。

 じっとみてたら、入口の扉が開いた。


 入って来たのは、背の高い男の人だ。


 髪が金色? 白くて長い上着……。 

 その人、俺に笑って話しかけてきた。


「Hi! I’m Chris.」


 また、わかんない言葉だ。

 お医者さんかな?

 でも笑ってくれたから、ちょっと安心した。


「お医者さん?」


 俺が聞くと、大きな手が髪の毛を優しくでてくれた。

 

「武ちゃんは?」


 その人は笑ったままだった。


「TAKESHI? He's not here.」


 ずっと、わかんない言葉。

 でも、大きな暖ったかい手で触れられたから、ホッとした。


 武ちゃんみたいだった。

 三つ上の武ちゃんも、よく撫でてくれたんだ。


 でもその人も、すぐにいなくなった。


 ◇


 それから何日かして、ほかの子たちのいる部屋に移動した。


 部屋には、大きい子から小さい子まで五人いた。 


「Here's your food. Let's eat」


 看護師さんがそう言うと、ご飯の時間だ。

 いつも言われるから何となくわかってきた。


 みんな元気だった。ご飯を食べるとお洋服に着替えていなくなるんだ。


 俺はまだ動きたくなくて、ずっとベッドで過ごしてた。


 ◇


 お部屋の窓からは、空と木の枝しか見えなかった。

 ベッドから見えてた木の枝が、葉っぱだらけになったら、せみの声が聞こえ始めた。


 蝉がいるのかなって思って、窓に近づいてのぞいたら、お庭は下にあって遠かった。


 窓は開かなかったから、顔をペタンとくっつけたんだ。そしたら、みんなが下にいるのが見えた。


 楽しそう。何してるのかなって見てたら、いきなり呼ばれた。


「こんにちは。まさるくん」


 びっくりしてそっちを見たら、優しそうなおじさんが笑ってた。胸には十字架。


牧師ぼくしさん?」


「よくわかったね。えらい子だ」


 でも、お父さんのお葬式そうしきでみた人とは違ってた。


「武ちゃんはどこ?」


「ここにはいないんだ」


「どこにいるの?」


「ここじゃないところ」


「会いたい」


「会えないんだ。だから……」


 おじさんは笑いながら言った。


「忘れよう」


 そう言われて……なんか怖かった。

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