星降ノ花ノ丘

Yp

出会い

ここは北東の小さな町。レンガ造りの家が並び、人々が行き交じる。肌寒い。にんじんのスープはすぐに冷めてしまう。わたしは今日もこの町に溶け込む。今日も町を練り歩く。


「マッチ…マッチを買いませんか?」

ある女の子に話しかけられる。齢10ぐらい。赤ずきんのような服を着ている。白いフリルが服に装飾され、靴まで真っ赤だ。三つ編みのおさげで、寒さからか顔が少し赤くなっている。

「マッチはいらないよ。この時代にマッチが売れると思ったら大間違いだ…」

「やっとみつけた!!!」

少女は大きな声で言う。突然の出来事にわたしは困惑が隠せない。

「おじさん、わたしが見えるんですね。」

おっと、これは大変だ。オカルト少女だ。面倒ごとに巻き込まれた。

「あぁ!待ってください。驚くのも無理がありません。いきなりこんなこと言われたら驚くのも無理はありません。」

彼女が一番混乱しているようだ。

「きみはなんだ?悪魔の類いか?わたしが何をしたというんだ?」

「いやいや!悪魔じゃないですよ!私は天使です!えっへん」

なんでこいつはこんなに誇らしげにいっているのか。そもそも子供が何をしているのか。

「いやぁ、なんかですねーこの町にやっとの想いでついて…お金がなくてですね…」

「だからといって、今時マッチは売れないだろう」

「え、なんかこういう街ならマッチを売れる感じがしません?」

何いってんだこいつは。これ以上付き合ってられん。わたしはその場から離れようとした。

「あーー!待って待って。じゃあ、おじさん!マッチは買わなくていいので、これを買いませんか?」

これ…?でも彼女はマッチ以外なにも持っていないようだが…

「はぁ…何を買わせる気だい?」

「そうですね…わたしの時間を買いませんか?」

…何いってんだこいつは。

「よくいうじゃないですか!時は金みたいなもんだって。」

不覚にも笑ってしまった。自分にたいそう自信がおありのようだ。

「ははっ。きみの時間はどのぐらいの価値があるのかなぁ?そんなにたいした価値もないだろ…」

「かけがえのないものです。わたしにとっては。」

少女は急に真面目に話し始める。

「えっと…だからといってそんな曖昧なものにお金を払うことはできないよ」

「構いません。おじさんはお金を払う必要はありません。買った時間分、わたしについてきてほしいんです。それならおじさんも損はありません!」

「いやぁ、ついていくって…わたしの時間もだなぁ…それに初対面のこんな小さい子と一緒にいたら...」

「大丈夫です。わたしはあなたが優しいことを知っています。」

なんで初対面の子にここまで信用されているのか。新手の勧誘か?

「あぁ…ところできみはどこに行きたいの?」

「星降ノ花ノ丘です。」

「…」


なぜ、ここに彼女が行きたいのかは分からない。でもわたしはふと感じたのだ。行かなければ何かを失ってしまうような、心が少し揺れて締め付けられるような感覚を。

「…いいだろう」

「本当ですか!やった!ありがとう!」

少女はにこやかに微笑む。

「じゃあ、月が登り始めた時間に丘の入口に来てください!!わたしも用意をして待ってます」

「あぁ、わかった」


あぁ、なぜ了承してしまったのか…しかしわたしは紳士だ。少なくとも女性との約束は果たそう。


星降ノ花ノ丘…か…


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る