第10話 波乱の運動会
「え~っと 来月は運動会がある。そのため明日からお遊戯の練習をするぞ。」
タケルが朝の会でみんなに知らせた。
「ねぇねぇ、さっき武道会がなんたらとか言ってなかった?」ヒカリがテラスに聞いた。
(こいつ、全く人の話を聞いて、、、はっ!これは絶好の機)
「あぁ言っていた。来月この園で力自慢を決める武道会を開催すると言っていた
お遊戯というのは観客を楽しませるための踊り この国の儀式らしい」
「そうなんだ、でも戦いの練習はしないのかな?」
「するわけないだろ、敵に手の内を見せてどうする」
「それもそうね!誰にも負けないように頑張るわよ」今日から自主トレをするしかないわね。
(ひとつも疑いもしないとはな、せいぜい恥をかけ、今回の作戦は私の勝ちだな ふははは)
この時テラスは気が付いていなかった。
辱めを受けるのは自分だけではなく、兄弟であるテラスも受けるのだと。
(でも力自慢て何をするのかしら、模擬試合?筋力測定?そうだちょっと意見聞いてみよう。)
「ねぇねぇ二人とも」
なんだ とテラスとミツキは返事をした。
「この国で、力と力の真剣勝負と言ったらどんなことがあると思う?」
「ん~プロレスかの」とミツキは答えた。
「我が考えるのは、そうだな 腕相撲か」とテラスは答えた。
「妥当ね、でも子供たちがやるのだとするとちょっとプロレスは過激かしら。
腕相撲も絵柄として少し地味だわ」
「たしかにのぉ あ、もっとらしいことがあったわ この国ならではの競技」
「この国ならではの競技??」
「それはの 相撲じゃ! これは100%の回答じゃないか?」
「相撲 相撲に違いない!とても現実的! ありがとう!」幼稚園の競技はおそらく相撲で確定ね 危なくないし
「これは何の質問じゃ? ってヒカリはもう聞いてないし」とテラスを見た。
「我が妹ながら、さっぱり思考が読めん 格闘家でも目指しているんじゃないか」
「家に帰ったら母様に相談しよ~っと」ヒカリはなにやら相談をするようだ。
そして迎えた運動会当日
「みんなおはよう!今日は待ちに待った運動会だ!」タケルはいつも以上に気合が入っているようだ。
「みんな、運動会用の着替え 持ってきたか?各自着替えたら園庭に出るように 先生も着替えてくるぞ」
そうしてタケルは職員室に戻った。
運動会は各自動きやすい服を用意するという物だった。
園児の両親たちはすっかり体操着で出る物だと思っていたのだが、それを知らされたのは1週間前、
各家庭大慌てで運動会用の服を用意したのであった。
「ねえミツキ、どんな道着を用意したの?」
「え、道着? 何言ってるんじゃ?」
「私はこれよ!」なんとヒカリは相撲のまわしを持ってきた。
「なんとヒカリ…それ巻くのか?」
「当たり前じゃない!相撲よ相撲 戦いは形が大事よ」
「すまん全く話が見えん」
すると後ろのほうで
「なんとーーー! なんだこれは!」 とテラスがらしくない大きな声で叫んだのであった。
「ど、どうしたんじゃテラス」とミツキが駆け寄ると
テラスは一本の帯を手に持っていた。
「母様に頼んで相撲用のまわしを二人分用意してもらったのよ!気が利くでしょ私!」
「さっきからいったいお主は何の話をしておるんじゃ…」
ささ、園庭に行きましょう!とテラスを強引に着替えさえて表に引きずり出した。
園庭に出ると、母様と父様が手を振ってくれた。
「テラスくん ヒカリちゃん お相撲頑張ってね!」とのんきの応援していた。
「一同 整列!」タケルの掛け声で園児たちがみんな並んだ。
「園長先生、開会のあいさつのお言葉をお願いいたします。」とマイクを渡した。
10月だというのに容赦なく園庭を照らす。
「皆さん 今日開会できたこと大変喜ばしく思います。少々個性的なファッションの園児もおりますが
運動会という日を大いに楽しんでください。」
「ねえミツキ、今運動会って言わなかった?」小さい声でヒカリはミツキに聞いた。
「言った 運動会で合っているぞ」
「武道会じゃないの?」
「はっ?」思わず大きな声を出してしまった。
「いやだから今日って園の中で誰が一番強いかを決める武道会じゃないの?」
話を横で聞いていたテラス。
(しまった この間の相撲のやり取りがこれに繋がったのか)※時すでに遅しというやつですよ魔王様
「ヒカリさんよ、ワシはお前さんの将来が心配じゃ」
「いやだってテラスが武道会って…あ!」ここでようやくすべてを察したヒカリ。
「テラスに騙された…」
「そのようだの、ま、あやつもそれなりの報いを受けておるから許してやりなって」
後ろのほうで保護者がクスクスと笑っている。理由は明白だろう。
「え、じゃあ相撲は無いってこと?」
「どこの世界で運動会に相撲とるんじゃ!」
「そっかぁ ちょっと楽しみにしてたのに…」
(テラスめ、あとで覚悟してなさい)
「10月というのに本日は暑くなることが予想されますが、各自十分水分補給をするように 以上」
そうして園長先生の話と共に運動会が始まった。
これは語らずともわかる事であるが、
15m走、リレーは全園児の中でヒカリの圧勝に終わった。
疾走して靡く回しは、あまりにも美しく靡いた。
初めは保護者も笑っていたが、そんなヒカリの姿を、いや優雅に靡く回しを見て、
彼女の姿は伝説として語り継がれ、翌年から腰に飾りをつけて参加させることが定番となった。
他の園児たちも影響を受けて、頭に巻くハチマキを腰に巻いて競技に参加した。
運動会が終わってから一か月ほど経過するまで、園内をハチマキを腰に巻いて走る園児たちが沢山いた。
皆でお弁当を食べ終わり午後、残す種目は 大玉転がし、玉入れ、組体操の団体競技3つだ。
むろん今回の弁当に細工などはしないテラスで合った。
「よっしゃ!お弁当もだべたし大玉転がし、絶対に負けないわよ!」
「気合が違うの、ヒカリ」
「年中さん年長さんにも絶対に負けない!」
「ほ、ほどほどにな ヴァルキスが本気出したら翌年から運動会中止になるぞきっと…」
そうして始まった大玉転がし。
ヒカリが触れると、2mほどボールは進み、結果一番ちっこい年少が勝利を収めた。
「えー次の競技は玉入れです。」
「おーいみんな カゴを持っている俺に当てるなよ!カゴだぞカゴ 特にヒカリ!」
「きた!ようやく玉入れだわ!」タケルの注意など聞いてはいなかった。それもそのはず
「それでは 位置について」
(…ん、空気が変わった?殺気!? まさか!ヒカリはどこだ…いた
この位置からならすぐにタケルの後ろに回り込める ヴァルキス 魂胆は見え見えだ)
「よーい どん!」火薬がはじけた音と共にヒカリとテラスは走り出した。
(玉3個確保、位置を確認…テラスは…いた! タケルの後ろに隠れても無駄!)
「くらえテラス!」大きく振りかぶったミツキの手から、白い何かが放たれた。
タケルがいったいなんだ…と考えている間にお腹に衝撃が走った。
(な、なんだ??撃たれた??鉄球か?鉛玉か? いや、これは…靴下丸めて作った玉入れようの玉じゃないか)
タケルは少しうずくまり数秒息ができなかったが、持っていたカゴだけは絶対に離さなかった。
この一部始終を認知しているのは、ヒカリ、テラス、ミツキ、タケルの4人だけだった。
(許してタケル!残弾2 タケルの態勢が崩れた今がチャンス! 一気に畳みかける)
こうして放たれた2つの弾 いや玉入れようの玉はきれいにテラスのお腹と顎を射貫き、
テラスはその場に倒れこんだ。
その後すぐに何事もなかったかのように玉入れに参加したヒカリであった。
タケルはただ玉を避けるためにしゃがみ、テラスは転んだだけだと周りの人は思った。
「おそらく戦いになるとヒカリのIQは200を超える、あやつは女子の身体で産まれて本当に良かった。
そしてテラス お主は男の身体で産まれて不運じゃったの。
そして一番の不幸はお前じゃ タケル」ヒカリの後ろで高みの見物を決めていたミツキは、
「そして何より、女子に産まれたワシが一番の幸運じゃ」と一人勝ち誇っていたのであった。
最後の団体競技の組体操が始まった。
一番の見せ場となるので、保護者達は一斉にカメラを構えた。
画面越しで見る子供の姿に感動する親と、自分の眼で見て感動する親、いったいどっちが多いのだろうか。
組体操の締め、この運動会の大締め、ピラミッド。
皆が注目するなか会場中が緊張に包まれる。
運動神経がずば抜けて高いヒカリは当然ピラミッドの頂上だ。
そして4月生まれで体の大きいテラスは当然馬になる。
ヒカリは四つん這いになるテラスの上に乗り、
そのかかとでそこでふんどし姿のテラスをおもっきし踏んずけてやった。
(何たる姿 何たる屈辱 くっそヴァルキスめ 必ずだ!いずれ、いずれ必ず復讐してやる!)
因果応報とはこういうことを言うんだね。
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