第2話 【承知しました。】


日が落ちた。炎が夜の森の中で俺を照らしている。深い漆黒の闇夜の中でそれはちいさな光だった。しかし、ただ今は、そんな炎でも心をいやしてくれる…。



遭難という状況の中でやっと心を落ち着ける状況にいた。

夕暮れになるその前にやっとの思いで火をおこすことができたのだ。



きりもみ式の火起こしはかなりの労働だった。動画サイトで見たことはあったし、

たいへんな作業とは思っていたが、まさかこんなにしんどいものだったとは…。



結局、昼間は歩けど歩けど森から出れる様子もなく、また文明の気配もなかった。

本当に遭難してしまったのだ。これからどうすればいいのだろう。ただ不安だった。



今ごろ家族はどうしているだろうか。俺のことを心配しているだろうか。

警察に届け出を出しているのかな、だとしたらもうすぐ救助がくるかもしれない。



けどはたして見つけてくれるだろうか。こんなところに俺がいると誰が気づくだろう。俺ですらどうしてこうなったのか分からないというのに…。



考えれば考えるほど不安がましていく、不安はつもり、それは恐怖となっていく。

もしかしたら…このまま誰にも見つけてもらえず…ここで…。



違う!そんなことはない!絶対に助かる!絶対に生き残る…!

絶対に…!絶対に………。



……。

焚火の燃える音と夜の闇が、重たい沈黙をもたらしていた。



「………家に帰りたい」




【承知しました。】



え?

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