第15話 ア○○○○○

「よお、一昨日ぶりだな」


 アカネの顔を見たのはその二日後の早朝のギルドホールだった。アカネは少しばかり怒っている様子。連絡する予定ではあったが、いつとは取り決めていなかった。


「あなた…………顔も見せずに何をしていたんですか?」

「すまん、しっぽりと語り明かしていたら、ふた晩経ってたってだけだ。そもそもアカネがどこに住んでるか教わってない」


 顔を赤くするアカネ。


「クランに連絡をくだされば十分です」

「クランに裏切り者がいるかもしれないんだろ?」


「そうですが……アンネミラはどうでしたか? 語り明かしていただけでは無いのでしょう? 酷いこととかしていませんよね? 約束、忘れてませんよね?」

「ああ。アンネミラは満足していた。アカネのことは、自分の男付き合いにうるさいから距離を置いていたんだと」


 眉をひそめるアカネに、フッと笑う。


「――ふたつ報告がある。ひとつは、俺の鑑定が解除されなかった」

「なっ! それでは意味が無いではありませんか!」


「ああ。もしかすると、寝取りでは俺が満足できなくなってるのかもしれん」

「何のために私は親友を…………こんな男に…………」


「もうひとつ報告だ。アンネミラは婚約者と縁を切って味方になってくれるとさ」

「いったい…………何をしたのです?」


「俺とのセッ……ベッドがよかったんだろうな」

「冗談は無用です! 何があったのですか?」


「ベッドがよかったってのは本当だ。そこは満足させられたと思う」

「そんなことで!?」


「まあな。むしろちょっと強引な方がアンネミラは好きみたいだが」

「余計な情報は要りません!」


「まったくアンネミラの言う通りだ。アカネはお堅いな。――んで、仕掛けはこれだ。どおりで魔法じゃ消せないワケだ」


 俺は30cmほどの棒状の布の包みをテーブルに置いた。


「これは?――見たところ魔道具のように見えますが」


 アカネが包みを開くと、布の中には現代人の俺からすると、なんとも卑猥に思える物体が転がり出てくる。片側は潰れていたが、最初はピンク色の宝石を金具で止めたようないびつな出っ張りだった。反対側はイカの足がねじれて寄り集まったような形をしていた。


「こいつをアンネミラの尻から引き抜い――」

「はぁ!?」


「……声がでかい」

「あなたがおかしなことを言うからです!」


「……気持ちはわかるがな、本当だ。悪い冗談みたいな話だ。アンネミラにこれが入っていた。最初に見た時は、ロイエントの趣味だと彼女は答えていた」

「あの男……!」


「けど、どうもそんな感じじゃなかったんだよな。抜こうとしても抜けない。アンネミラも苦しむもんだからロクなもんじゃないと思った俺は、尻から出ている先端をこう――指で握りつぶした」

「潰したって…………これ、金属か何かに見えますよ??」


「知ってるだろ? 馬鹿力なんだよ、俺は。――ともかく、アンネミラはこれを抜いた途端、涙を流して喜んでたよ。やっとロイエントから解放されたってな。たぶん、これがアカネ、お前が話していた魅了の魔法の仕掛けってやつだ」

「おぞましいことを……」


 まあアカネの言う通りだな。こんな趣味の悪い道具、頭のオカシイ人間か、人を人とも思っていない人間にしか考え出せないだろう。



 ◇◇◇◇◇



「そんな汚いモノを扱うように、粗雑に扱うな。大事な証拠だろ」


 アカネはテーブルの上のモノの扱いに困っていた。


「だってこれ……アンネミラの……に入っていたんですよね?」

「大丈夫。別に匂いはない。そもそも抜けないってことは、出てくるモノはこいつが処理するしかないはずだ」


「そういう問題ではありません! あと、出てくるモノとか、処理とかって言わないでください!」

「そうか? 便所へ行かずに済むからむしろ女には便利な道具だと思うが」


「普段のあなたは配慮が無さ過ぎます!」


 とにかく、壊してはしまったが証拠は手に入れた。






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