神の造りし刀

「はっ!!」


 寝落ちしそうになるのをなんとか堪え、健太郎は悲鳴を上げる体に鞭を打ち、戦利品の回収を始める。


「体、おっも……」


 刀、刀と真っ先に掴んだのはやはり刀神が持っていた白い刀であった。


「あぁー……。やっぱり綺麗だなぁー……」


 神が持つに相応しい一品。太刀よりも短く、反りが浅い。打刀の特徴だ。刀身は白の拵えでより一層輝きを増しており、その白銀しろがねの輝きに浮かぶ刃文は穏やかに流れる水を思わせる。


 思わず見惚れるほどの美しい刀であった。最早振るうのさえ惜しくなるほどだ。


 これもコイツの能力か?


 事切れた死体に目を向けた。


 なんで人間止めちまったんだよ……。そう思うと悲しくなってくる。


 『駆逐許可及び保護対象外危険生物』。元は人間。『堕ち人』や『獣堕ち』と人々は呼んだ。その原因は隕石であると言われており、そうなると言葉を忘れ、獣のようになる。しかし社会性はなく、昼行性で基本的に群れを造らない。何かに異常なまでの固執を見せる個体も存在する。何かの切っ掛けで突然能力者がなることから隔離の理由の一つとなっていた。


 人間の時に打った刀なのか。考えても仕方のないことだが、なんとなく生前の彼に思いを馳せてしまう。


「さてと。鞘、鞘と……」


 ま、今日から俺のもんだからな。そう切り替え、腰の鞘を粘土で引き寄せ、刀を収めた。


「頂戴いたします」


 両手で持ち、頭上よりも高く掲げ、刀神に対し、礼を尽くす。


 思わずそうしたくなる程の刀を手に入れたのであった。


 後の2本はと……。


「おっ!! こっちはこっちで、よく見りゃすげー刀だな。こりゃ!!」


 健太郎は粘土で覆いながら足首から慎重に刀を引き抜き、一振り一振り、じっくりと眺める。


 まず一振り目は見た瞬間、勇猛、勇敢、力、守護、忠義という言葉を連想させる打刀であった。


「おッ!! 重いなー……!!」


 鈍い光りを放つ分厚い刀身。刃文は神々しく燃え盛る炎のようで、腰に差すだけで不思議と力が湧き上がり、振るえば実力以上の力を発揮することができそうであった。


 どんな拵えならばこの素晴らしさを引き立たせてくれるのか。想像しただけでワクワクしてくる。


 粘土で包む前に同じように両手で頭上よりも高く掲げ、よろしくお願いしますと頭を下げた。


「さてと!! お待たせしました!!」


 フフフと喜ぶのも無理はない。最後の一振りも当然、他の二振りと並ぶ名刀だ。夜空に浮かぶ星の輝きがそのまま刀身に宿っている。


 大小様々な白い光の粒が刀身を覆い、光の当て具合でその表情を変え、どれも雄大であり壮大。自然の持つ美しさが刀を通じて感じ取れる。これもまた、人斬り包丁であることを忘れさせ、魅了する不思議な刀であった。


「いやぁー……。いいねぇ……」


 まさかこれほどまでの大収穫だとは。こちらも上に掲げ、頭を下げる。


 ――よろしくお願い致します。


 刀身だけの二振りと刀神の体を念のため小分けに分けて粘土で包み、縮小。シール状にして腕に張り付ける。


「いやぁー大漁!! 大漁!!」


 笑いが止まらない健太郎であった。


「さてと……。そろそろ行きますか!!」


 めくった腕から粘土が伸び、そのまま仕舞っておいた車の形にグネグネと形を変え、布のカバーを剥がすように引っ張ると、中からピックアップトラックが姿を現す。


 忘れ物がないか辺りをくるっと見回し、確認。それから車に乗り込み、2人の気を探る。


「んー……。あっちか」


 目的地に向かって車は走り出す。白銀しろがねの刀を助手席に乗せて。

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