第15話 デカいママの過去とデカすぎる秘密の契約
玄関からリビングへと場所を移し、俺と菜乃花さんは椅子に腰を下ろす。
「じゃあママ、わたしは夕飯の支度するね?」
「うん。ありがとう紅葉」
紅葉は一人、キッチンの方へと行ってしまった。
「さて青斗くん。ママは何から話したらいいのかしら?」
「いや、何からというか……俺、高校受験に失敗してから一年間ずっと引きこもってて。今回の再婚についても全部知らないというか」
俺は正直に何も知らないことを菜乃花さんに打ち明ける。
「和樹さんは『青斗にも話した』と言っていたけれど、やっぱり話してないみたいね。じゃあ、まずはこれを見せないと」
菜乃花さんはそう呟くと、突然、着ている縦セーターの首元に右腕を突っ込んだ。
こ、今度は何してんだこの人?
菜乃花さんはその爆乳の辺りで何やらモゾモゾ手を動かし、縦セーターからやっと手を抜いたかと思ったら、その手の中にはホカホカなスマホが……は???
まさかこの人、今、胸の谷間からスマホを取り出したんじゃ……!!
「まずはこれを見て青斗くん。これが私と和樹さんが出会った時の写真で」
「ちょっと待ってください!」
さも当たり前のように話を進めようとするので、俺は待ったをかける。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも! なんて所からスマホ取り出してるんですか!」
「え? 谷間、だけど」
「た、谷間!?」
「便利よ? すぐに取り出せるし、常に胸元に感覚があるから失くさないし」
「便利とかそういう話ではなく!」
この感じだと、あの三姉妹(特に結珠奈と紅葉)がかなりクセ強なのはこの母親の影響か。
(※大変危険な行為なので爆乳の皆さまは真似をしないようにしてください)
「それで話を戻すわね」
「は、はぁ」
なんか俺が話を逸らしたみたいな空気になってるのが遺憾なのだが。
「これが私と和樹さんが初めて会った時の写真よ」
ホカホカなスマホに表示されたその写真には、オシャレな会場で二人が並んでシャンパングラスを持つ様子が写っていた。
「1年前くらいに和樹さんが四国へ長期出張をしていた時期があったでしょ? その時に私の会社と和樹さんの会社が参加した企業の交流会があって」
「交流会?」
「うん。まあ砕いて言えば、中堅から若手の社員たちが企画したコンパみたいなものだったんだけど」
「コンパって……親父が一番嫌いそうな類いのイベントだと思うんですけど」
何と言っても仕事一筋の人だから、コンパに参加したなんて意外すぎる。
「それでそのコンパでね、酔っ払った男性社員に私が絡まれているところを、和樹さんが助けてくださって〜!」
「あの親父が?」
「うん。それでその後お互いにひとり親で子育てしてることを知って、連絡先を交換して、それから何度かお話しするうちに……ね?」
菜乃花さんは察しろと言わんばかりにあざといウインクをする。
しかし、あの親父が出張先でそんな生活を送っていたとは……。
美人を助けて連絡先を交換して交際にまで発展するだなんて……俺の知らない一面すぎる。
「それで親父から再婚の申し出を?」
「ううん……実は私からなの」
「え、菜乃花さんの方から!?」
意外だ。てっきり親父からプロポーズしたのかと。
「娘たちって三つ子だから同時に巣立つでしょ? それで一人になるのが寂しくて……悩んでいた頃に和樹さんと出会って、運命だと思ったからすぐ和樹さんにアタック♡ しちゃった」
「へ、へえ……」
あの無口の親父にアタックするなんて……なんともまあ、物好きなもので。
でも親父も親父で同じようなことを考えていたのかな?
俺がこのまま引きこもり生活を送らないようにするために、この家に新しい風を吹き入れた……足りない部屋の件といい、復学の件といい、親父に計算し尽くされてる感はなんとなく否めない。
「でも親父って仕事の単身赴任とか出張が多くて家にいないんですけど、それでもいいんですか?」
「それなら大丈夫♡ 今後は私、和樹さんの赴任先とこの家を行き来して、みーんなのお世話をする往復ママになる予定だもの」
「お、往復ママぁ?」
「だって和樹さんとも一緒にいたいし、みんなとも一緒にいたいもの。それに……あなたたちをこの家に置いておいて、いかがわしい行為に及ばないように監視しないといけないし」
「し、しませんよ! いかがわしいことなんて!」
俺がそう言うと、キッチンの方で鍋をゴロンッと落としたような音がする。
「ごめーんお鍋落としちゃったー!」
そう、キッチンから紅葉の声が聞こえた。
いつも手際よく料理を作る紅葉にしては、珍しいミスだな……と思いながらも話を続ける。
「あの、菜乃花さん。確かに俺は結珠奈と同じ部屋になったり、紅葉や杏子とも、今のところ上手くやってますけど、そういう関係にはなりませんし、これからは三人の兄として」
「あらあら。もしかして青斗くん……まだ"あの事"も知らないのかしら?」
「あの事? な、なんのこと、ですか?」
「ふふっ、実はね……再婚する時に……」
そして俺は、衝撃の事実を知ることになる。
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