EP 7
はじめの一歩と、迫る危機
季節は巡り、アルトはミルクファームに来てから初めての誕生日を迎えた。
すくすくと育った彼の体は、今やしっかりと自分の力で動くことができる。その記念すべき瞬間は、ある晴れた日の午後に訪れた。
「あら、まぁ! アルトったら、ハイハイしてるわ!」
ユキナの弾んだ声が、プレイルームに響く。
今まで寝返りを打つのが精一杯だったアルトが、小さな手足を懸命に動かし、ゆっくりと、しかし確実に前へ進んでいたのだ。その姿を見つけ、近くで作業をしていたワンダフとミーニャも駆け寄ってくる。
「おおっ、本当だ! 偉いぞ、アルト! それが世界への第一歩だ!」
ワンダフが大きな手で、わしゃわしゃとアルトの頭を撫でる。
「ふふ、どんどん大きくなるんですよ」
ミーニャも、普段の厳しい表情を崩し、心からの笑顔を見せた。
「あっ! あっ!」
(ふぅ、頑張ったからな! これで行動範囲が一気に広がるぜ)
皆の賞賛を浴びながら、アルトは誇らしげに胸を張る(実際には床に胸をつけたままだったが)。
そんな和やかな雰囲気の中、畑仕事から戻ってきたニックが、浮かない顔でミーニャに報告した。
「ミーニャさん、大変だ。最近、米の苗の生育がすごく悪いんだ」
ニックの言葉に、隣にいたウッシも頷く。
「ああ。もう何日も日照りが続いているからな……。土がカラカラなんだ」
その言葉に、ミーニャの笑顔が曇った。
「まぁ、そうかい……。でも、大丈夫。きっと何とかなるさ」
彼女は子供たちを不安にさせないよう気丈に振る舞ったが、その声には隠しきれない憂いが滲んでいた。ミルクファームの食料の多くは、この畑に頼っている。米が不作になれば、冬の食糧事情は一気に厳しくなるのだ。
その会話を、アルトは聞き逃さなかった。
(日照り……米が育たない……。それはまずいな)
これまで、彼はただ与えられるだけの存在だった。無力な赤子の体では、そうするしかなかった。だが、今は違う。
(待ってろ、みんな。俺が何とかしてやる。そのために、この一年間、力を蓄えてきたんだからな)
アルトは固く決意した。
自分の意思で、自分の力で、この大切な「家族」を守るのだと。
ハイハイという、ささやかだが偉大な一歩を踏み出した彼は、次なる大きな一歩――ミルクファームの危機を救うための、秘密の計画を実行に移す準備を始めたのだった。
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