4 微睡

A、ツン君

 ん? 眩しいなあ〜。昨日と違って、今日はとっても良い天気だ。それに、何だか身体中に力が満ちわたっている気がするぞ。


「ツン君。今日は気持ちの良い天気だよ。久しぶりに会いに来たよ」

「会いに来たって……あっ!」

「やっと思い出してくれたみたいだね……」

「……ルルおじさん!」

「あの頃はちっちゃい仔猫だったけど、頑張って立派に育ったんだね」

「立派じゃないよ。こんなに痩せてさ……」

「ハハハ……痩せてなんかいないよ。見てごらん」

「……ほ、ほんとだ! お腹も腕も、脚だって凄いや。ルルおじさんは、魔法使いなんだね」

「そうさ。それは、ほんのお礼さ」

「お礼?」

「ああ、そうだよ。おじさんの大好きなのの君に優しくしてくれたからさ」

「……」

「のの君は退職してから、とっても寂しく過ごしていたんだ。心が折れてしまうんじゃないかって、本当に心配してたんだ。そんな時、ツン君がのの君と出会って、のの君を飼ってくれたから、元気になったんだよ。本当にありがとう、ツン君」

「のの君を飼っただなんて。俺の方こそ、カリカリを貰ったり、毛繕いしてもらったり……」

「ハハハ……実はね、そうやって、ツン君はのの君を飼っていたんだよ。ニャン族は人間に飼われているのではなく、人間を飼ってやってるんだよ。だから、人間がニャン族を見ている時って、幸せそうで嬉しそうにしているだろ? ニャン族は、誇り高い生き物なんだよ」

「そうなのか。うん! わかった」

「じゃあ、おじさんと一緒にのの君を見に行ってみるかね?」

「うん。行く!」


 空を見上げると、淡い光が広がっていた。氷雨はまだ降り続いていたけれど、その向こうには確かに春の兆しが滲んでいた。

 微睡まどろみのように静かな時間が、ゆっくりと心を満たす。ツン君との日々の記憶が、胸の奥で柔らかく揺れ、優しい余韻を残していく――。

 

B、のの君

「キョウちゃん、今日も氷雨だよ……」

「うん。寒いだろうね」

「こんな日は、ツン君たちみたいな野良猫は、きっとどこかの寝ぐらで丸くなってるんだろうね」

「きっとそうだね……」

「一応、いつもの場所にカリカリは置いてあるけど……」


 二人はしばらく窓辺に立ち尽くし、降りしきる雨の向こうを見つめていた。

 その雨は、まだ見ぬ春を待ちわびる心そのもののように、しとやかに降り続いていた。

 

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