第2話 作戦会議①
元々拠点としていた王国を発ち、隣の小国ガラルに移動した俺たちが見つけたとある廃城。そこはこれまでファラクたちが住んでいたボロ小屋でも洞穴とは比較にならないまでに住みやすかった。同胞全てに部屋を与えることは難しいだろうが、幹部一人一人に用意するくらいなら造作もない。
今こうして話し合いをしている食堂だったと思わしき場所も、五十人程度なら余裕で入るほどの広さを誇っている。相当有力な貴族が保有していたと推測できる規模なだけに、先ほどエルザが殺した男の所在が気になるところだ。この最も気になる議題は、先ほど周辺の村や街に潜っていた散策隊から情報を得るまでは不明だった。今はアザゼル一家の、これからの動きについてファラクと幹部を含めた五人で考えを擦り合わせていた。
「暫くはここに住むだろ?村も森も近くにあるから立地はまじ神ってる。てか部屋割りして早く休もうぜ〜テリ」
「先に掃除だ馬鹿ガンツ。まずは死体の山と埃まみれの部屋をどうにかする。挙げ句の果てに蜘蛛の巣が張ってるんじゃ三日はかかるぞ」
憧れだった城の居住権を獲得し浮かれているガンツとは対照的に周囲の状況を判断し冷静に話を進めているテリ。議論の際はいつもこの二人が衝突しているが環境が変わってもその関係も変化することはないらしい。
「今日はいいだろ!?誰もいねぇと思って来たらクソみてぇな数の敵兵がいてよ!!ありゃ間違いなく百はいたぞ!!」
「だったらお前はどっか邪魔にならねぇところで休んでろ。敵兵がいたなら尚更この城は完全な廃城じゃなかったってことだ。城の中に罠の一つ仕掛けられてても不思議じゃねぇよ」
この城を拠点とする前、俺たちは武装した兵士たちと一戦交えている。大方の敵は城の内部にいたため数の力で圧殺できたが、身につけていた格好からして、俺たちのようなならず者ではないことは明らかだった。
「たまたま居ただけだろ?あの坊ちゃん貴族がこの城に住んでたとは思えねぇしよ」
ガンツは耳穴を小指でほじくり返しながらめんどくさそうにそんな台詞を口にした。
「ねぇガンツ。私の前で鼻くそとか耳くそとかほじるのやめてって言ったわよね?今度同じことやったら燃やすから」
ウチの誰かが用意してくれたのか俺たちで囲んでいる木製の丸いテーブルの上にエルザが両足を乗せると、その靴裏をガンツの方へと向けた。
「燃やすって、あの貴族みてぇにか?元はと言えばテメェがアイツを殺さなきゃこんな会議開く必要なかったんだぜ?少しは反省の色見せたらどうなんだよエルザ!」
「汚い唾も飛ばしてくるとかほんと最悪。なんでアンタみたいな豚野郎が私と同格なわけ?家畜に降格したらどう?そうしたら少しは可愛げが出るわよ?」
‥‥‥前言撤回。あの二人が仲悪いとか関係なくウチの一家はもう崩壊している。そもそも野党に固い絆とか生まれるはずがない。
「お頭もういいから会議を進めてください。コイツらに付き合ってると今日中にまとまらなそうだ」
エルザとガンツの睨み合いに両挟みされる中、大きなため息を吐くとともにテリが俺に進言した。
「そうだな。二人とも取り敢えず静かにしろ。先に黙った奴から好きな部屋を選ばしてやる」
訪れる一瞬の静寂。二人の視線が俺に集まると互いに顔を見合わせて大人しく黙り込む。隣に座るテリは腕を組みながら大きなため息を吐くとともに「バカすぎだろ」と一人呟いた。
「欲に忠実なんだよコイツらは」
「結局バカじゃないすか」
テリが俺の言葉にツッコミを入れたその時、木の軋む音を立てながら部屋の扉が開かれた。最後の幹部の一人、ヴィディアが姿を現すと部屋にいた全員の視線がその男に向けられる。
「先ほど近隣の村に出掛けていた散策隊が戻ったわ」
ヴィディアが持ち帰って来たのはこの城の詳細な情報とエルザが殺した貴族の素性。どちらの情報も今後の滞在に関わる重要なものだ。
「城の話はあとで聞く。まずはあの貴族の素性を聞かせてくれ」
俺の質問に彼女がどう答えるのか。神妙な雰囲気で幹部全員が気を張っていると、
「エルザが殺したのはこの国の王の子息。もっと言えば未来の王様候補だったらしいの」
俺が考えていた小領主の息子という線を覆し、最悪の報告を淡々と口にしたのだった。
「王様候補?ってことはあのガキが王子ってことかよ!?」
大きな巨体を起こして座っていた椅子を倒すと、ガンツは城を揺らすほどの大きな声を部屋中に響かせた。事件の発端を引き起こした当人であるエルザに反応はなく、むしろ微笑んでいる。
「どうしますお頭。想像以上にやべぇ状況らしいですが」
「まぁ焦るなよテリ。少し考える」
「っすね。流石に王族はやべぇ」
もはやこの城に住めるかという議題以前の話を持って来た現状において、どうしようもないというのが辛い現実。頭という立場にないのならすぐにでも放り出してこの城からトンズラこきたいところが、それでは野党を束ねる者としての面子は丸潰れだろう。
とは言っても、流石に王族を殺したとなればすぐさまガラルから討伐隊が送られるのは時間の問題だ。少しずつ勢力は拡大してきたものの国一つとやれるまでに強いわけではない。
さて、どうしたものか。
「殺せばいい」
何をどう考えて頭の中で導き出されたのか、いきなり立ち上がったエルザがそんなことを言い出した。
「殺す?まさか国と一戦交えるってことかよ」
彼女の考えを一蹴すべく、テリは問い詰めた。
「それ意外何があるわけ?貴族なんかよりよっぽど腹が立つのが王族連中なんだ。ここらで私たち野党が国一つくらい滅ぼしてやればいいんだよ」
満場一致で可決されることのない最悪のアイデア。実行すれば一家の全滅は限りなく高いその作戦にただ一人エルザだけはどこから湧いたか分からない勝算を持ち合わせていた。
「エルザの案は取り敢えず保留にしておくとしてどうするのお頭。辺境の村であの騒ぎだからきっと王都の方はすごいことになってるわよ?」
「わかっている。だからそれも含めてどうするか考えてんだろ」
たった今、ファラクに質問してきたヴィディアそしてテリの中には共通して二つの案が頭の中に浮かんでいた。
一つ目はガラル領地からの撤退。この場合、フィオネ王国に戻るかそれとも危険を犯して国境超えを行うか追加で選択が迫られる。前者にしても後者にしてもこの城を捨てるわけだから一家の士気は大幅に下がるだろう。というより敵に背を向けて逃げることに対して賛同するほど飲み込みのいい連中は多くない。
二つ目は徹底抗戦。すなわちエルザの作戦を採用 する形になるのだが、この場合は全滅を視野に入れて戦うことになる。王都からは距離もあるしガラル軍本体と接触するまでに時間は稼げる。罠や防衛戦の工夫は凝らせるがそれも大して頼りになるか分からない。
この城に住めなくなるかもしれないと慌てふためくガンツと殺意に取り憑かれているエルザの武闘派幹部はさておき。高い知略と冷静な判断ができる軍師役の二人は既に城を捨てた後、もしくは一家の全滅する最悪の未来を想定して思考を巡らせていた。
一家の反感は買うが全滅の可能性は低い撤退の一手か。もしくは全滅覚悟の徹底抗戦を国に仕掛ける二つ目の手か。居心地が良くこの先も一家を守っていきたいと考えている二人にとってはもう一つの手など選ぶ余地はなかった。
「頭、やっぱりここは一度撤退を——————」
未だ沈黙を貫き、一人思案に暮れているベレトに対して進言の動きを先に見せたのはテリの方だった。しかし、予め用意していた台詞はファラクの一声によって掻き消される。
「なぁテリ。どうしてお前の頭の中には撤退と抗戦の二つしか用意できないんだ?」
「は?いや、それ以外にどんな策が」
この時、部屋にいた全員の唾を飲み込む音が同時に鳴った。騒いでいたガンツとエルザも、静かに俺の言葉の行方を待っていたテリとヴィディアも四人の幹部が一斉に俺の方を向いた。
「あるだろ?特攻の一手でも撤退の一手でもない、命を賭けずとも城どころか国をぶんどっちまう第三の策がよ」
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