第4話

1-4


「……きろっちょ! おい! 起きろっちょ!!」


ヘルメットを連続蹴りされる衝撃で昌智は目を覚ました。


ガンガンする頭痛を頭を振って追い払う。


背中の痛みに顔を顰(しか)める。


「ようやく起きたか。まぁ、なにも感じる事なく寝たまま死んだ方が幸せかもっちょ」


声のする方に視線を向けると、そこには子猪、ウリ坊がいた。


「そうだ、お前、すぐ死ね! そうすればウチも、すぐ還れるっちょ!」


恐ろしい事を、さも名案とばかりに言いながら目を瞑ってウンウンと頷くウリ坊。


「……お前、喋れるのか? ここは、どこだ? 俺は、どうなったんだ?」


つい先程まで昌智は、精進ブルーライン( 358 号)を走っていた筈だが、景色がまるで違う。


舗装された道路、お食事処『宮古』、水田、用水路など一切存在しない。


明らかに、ここは戦場だ。


しかも現代ではない。


そこかしこで甲冑に身を包んだ男たちが剣で斬り合い、一目で死体と分るものまでもが転がっている。


「お前、随分と余裕だっちょ。ほら、あいつ、お前を殺そうとしてるっちょ」


ウリ坊がクイっと鼻先で左後方を指し示す。


昌智が振り返ると、8 m 程先に倒れていた騎士が両手剣を杖代わりにして立ち上がろうとしていた。


その眼光は非常に鋭く、視線だけで人を殺せそうな勢いだ。


「貴様、魔術師が!? 神聖な騎士の決闘に割り込みおって! 許さん!」


騎士の視線の先、昌智の右側にも、もう一人の騎士が倒れていた。


どうやら切り結んでいた二人に衝突した様だ。


背中の痛みは、この時のものだろう。


起き上がった騎士は、両手剣を振り上げながらズンズンと近づいてくる。


騎士の身長は 165cm 程であろうか。


175cm の昌智より、少し低く見えるが、体形は横幅があり筋肉質で迫力がある。


体重 60 kg の昌智より確実に重い。


鎖帷子(チェインメイル)を着ており、その上にブリガンダイン(革製のベスト状の胸当て)、緋色のマントを装備し、頭部はバシネット(鉢兜)を被っている。


両手剣を持つ腕も昌智の 1.5 倍は太い。


コスプレには見えなかった。


どう見ても本物の迫力がある。


「うひひっ! 死ね! 死ねっちょ!」


ウリ坊が嗤いながら囃し立てる。


「くそ! 何なんだっ!?」


「うおぉー!!」


獣の様な咆哮を上げながら騎士が斬り込んでくるのを、地面を転がり、なんとか避ける。


両手剣がザクっと地面を抉り、騎士は返す刀で横払いを仕掛けてきた。


剣先より先に土塊が昌智を直撃し、一瞬、視界を奪う。


「くっ!」


迫る刃を寸でのところで昌智は前転して躱すと、膝立ちとなり体制を整える。


「ええい! 武器は!? なにか武器はないのかっ!?」


周囲に視線を巡らすが辺りには何もない。


「武器が欲しいちょか?」


ウリ坊が問いかける。


「欲しい! くれ!!」


「ならウチに続いて真言(マントラ)を唱えるっちょ!」


「真言!?」


「今のお前はレベル 1 。総計 10 kg の重量物まで召喚できるっちょ」


「レベル 1 !? 召喚!?」


突然の事態に全く頭が追い付かない。


「いいから、死にたくなければ唱えるっちょ! 唵(オン)・摩利支曳(マリシエイ)・娑婆訶(ソワカ)! 出でよ! 我が金剛杵(ヴァジュラ) FN 5-7!」


「オン! マリシエイ! ソワカ! 出でよ! 我が金剛杵! FN 5-7!」


昌智が真言を唱えた瞬間、眩ゆい光の結晶が眼前に顕現し、ゆっくりと、その形を拳銃へと変えた。


「なにぃ!? 召喚魔法か!?」


両手剣を構えた騎士の顔が歪む。


「ええい! 迅(と)く、迅(と)く、死ね!」


昌智が何らかの武器を召喚したのを知った騎士は、再び上段に両手剣を振り上げると、一緒くたに歩を進め、斬り込んだ。


昌智は咄嗟に眼前の拳銃を掴み取ると、その瞬間、拳銃の情報が脳を駆け巡った。



FN 5-7(Five-seveN)MK3 MRD 仕様・諸元


長さ:208 mm( 8.2 in )

バレルの長さ:122 mm ( 4.8 in )

幅:36 mm( 1.4 in)

質量:

空の状態: 610 g ( 1.3 lb )

弾倉装填時: 744 g ( 1.6 lb )

有効射程距離:50 m( 55 yd )

最大程距離:1,510 m ( 1,651 yd )

装弾数:ボックスマガジン 20 発(標準)

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