【完結】いじめられっ子の書いた異世界小説の影響でいじめてた不良が現実でネットリンチされて、クラスメイトだった俺まで巻き込まれる話

財宝りのか

第1話 ネット小説に母校のことが?

「藤原く~ん。もう何時思うてるん?今日は50カットは入れてもらわんとこっちの作業進まんのよ」


 撮影スタジオの山本さんの野太い関西弁はこの深夜2時には本当に胃にもたれる。


「す、すみません、今最終チェックしてて50は無理だったんですが、37カットは持って行けます」


 俺、藤原翔太はアニメ制作会社、スタジオ・ブルームーンのデスクで頭を抱えながら電話に答えた。


「それだけかいな。なんやねん。ほんま、スケジュール管理もっとしっかりしてくれや!」


 ガチャン。


 切られた。


 モニターに映る進行表は真っ赤だ。遅れ、遅れ、また遅れ。


「はぁ...」


 もう誰もいない制作デスク。缶コーヒーを飲み干す。もう何本目だろう。


 この業界に入って3年。子供の頃から憧れてたアニメの世界。でも現実は——


 朝まで作業して、やっと原画を回収。なんとか撮影スタジオに素材を出し終わった後は始発で帰宅して、シャワーも浴びずにベッドに倒れ込んだ。


 *


 昼になり、スマホの通知音でびくっと目が覚める。


 この仕事の、いつどこで連絡が来るかわからない感じは本当に心臓に悪い。


 LINEか...また仕事の連絡だろうな。


 画面を見て、そこに表示された名前を見て息が止まった。


『美咲』


 え?


 岡本美咲。高校時代のクラスメイト。俺があの頃——


 震える指で通知をタップする。


『翔太くん、お久しぶり!覚えてる?岡本美咲です』


 覚えてるに決まってる。


 図書室で一緒に勉強した放課後。文化祭の準備で遅くまで残った日。卒業式の日、言えなかった言葉。


『もちろん覚えてるよ!どうかしたの?』


 即レスしてしまった。必死すぎるか?


 既読はついた。でも返信が来ない。5分...10分...もしかして引かれた?いや、仕事中かもしれない。でも既読はついてるし——


 通知音。


 心臓が跳ねる。


『よかった〜!実は私も今東京にいるの。就職で去年から』


 東京にいる。


 美咲が東京に。


 地元の大学に進学したって聞いてたから、てっきり向こうで就職したと思ってた。なのに東京。同じ街にいる。


 嬉しさが込み上げてくる。6年ぶりなのに、まるで昨日の続きみたいに連絡をくれた美咲が、今、この東京のどこかにいる。


『そうなんだ!どの辺?』


『池袋の方!翔太くんは?』


『俺は杉並だよ。意外と近いね』


 電車で30分もかからない。会おうと思えば——いや、何を考えてるんだ俺は。


『それでね、ちょっと聞きたいことがあって...』


『なに?』


『「異世界でクラス転移したけど連中をざまぁしていきます」って小説知ってる?』


 は?


 なんだそのタイトル。


『知らない。なにそれ?』


『これなんだけど...』


 URLが送られてくる。


 小説投稿サイト「ナロウム」。そこで週間ランキング1位の作品らしい。


 タイトルをタップして、冒頭を読み始める。


『春、桜が舞い散る4月。県立光陽高校2年B組の教室は、いつものように騒がしかった』


 光陽高校?


 なんか聞き覚えがあるような...


『主人公のマサヤは、今日もまた「あいつら」に目をつけられていた』


 マサヤ。


 まさか——


 読み進めていくうちに、違和感が確信に変わっていく。


 教室の描写。渡り廊下の構造。体育館への道順。


 これ、俺たちの母校じゃないか。


 東陽高校を少しもじっただけだ。


 そして——


『「おい、マサヤ!今日も"日課"の時間だぞ」ケンジが下卑た笑みを浮かべる』


 ケンジ。


 健司だ。あいつだ。


 胸がざわつく。高校時代の記憶が一気に蘇ってきた。


 いつも取り巻きを引き連れて廊下を闊歩していた健司。すれ違う生徒たちが自然と道を譲る。俺もその一人だった。



 ある日、たまたま廊下で肩がぶつかった。謝ったのに「おい、お前なめてんのか?」って凄まれて。美咲が近くにいたから、格好悪いところを見せたくなくて必死に謝った記憶がある。


 あいつの嫌な笑い声が今でも耳に残ってる。


 そんな健司が、この小説では「ケンジ」として——


 スクロールしていく指が止まらない。


 つづく


《次回予告》


「リアルすぎるいじめ描写」


 ************


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