04
◆
次の日。
いつものように、星羅と湊は一緒に家を出て、一緒にバスに乗り、一緒に並んで学園への道を歩いています。
「ふぁ~あ」
「こら、あくびする時は目立たないようにしろ」
ついあくびをしてしまう星羅を、そっと小突いて湊は注意します。
「だって……昨日あんまり眠れなかったから」
「夜更かしは美容の大敵だからな。規則正しい生活を心がけろよ」
湊は周りを見回します。まるで「星羅のかっこ悪いところを見た奴はいないだろうな?」と確認しているかのようです。
幸い、誰もこちらを見ている生徒や通行人はいなかったようです。
「そんなに私に注目している人なんていないよ。私、普通科だし」
芸術科に通うアイドル志望の女の子ならば、いつも自分がどう見られているか注意するでしょう。
でも、星羅は普通科の生徒です。
アイドルのあの、どこにいても人を引き付けるようなキラキラは星羅は持っていません。
「ここにいるぞ」
「え?」
しかし、湊は足を止めて星羅をじっと見ます。
「俺はいつだってお前に注目してる」
そう言われて、星羅も立ち止まります。
もしかすると、湊は「星羅は危なっかしいから放っておけない」と思っているのかもしれません。
「……手のかかる妹でごめんね、お兄ちゃん」
星羅が謝ると、慌てて湊は否定します。
「そういう意味じゃない。妹にはいつでも、きれいでかわいいままでいてほしいだけだ」
「お兄ちゃん……」
思わず固まる星羅です。
(どうしてそういうことを真顔で言っちゃうの!? ここ、通学路だってば!)
本当に、星羅にとっては嬉しいのと恥ずかしいのと一緒です。
しかもその二つの感情が、まるで洪水みたいに押し寄せてくるのだからたまりません。
しばらく星羅はうつむいて赤くなった顔を隠し、湊をあたふたさせてしまったのです。
◆
「あ、先輩。おはようございます」
「ああ、おはよう」
「潮崎、おはよう」
「うん、おはよう」
「元気~? 昨日はお疲れ様」
「元気だ。そっちこそお疲れ様」
通学路を通って学園に到着し、靴箱に向かうまでに何人かの生徒と湊はあいさつを交わしました。
一番最初は後輩の女子。二番目は同級生の男子。三番目はどうやら劇の共演者の女子です。
「う~ん……」
そのやり取りを見ていた星羅は、何やら不満そうな顔で考え込んでいます。
「どうした、星羅」
それに気づいた湊は、星羅の顔をのぞき込みます。
「お兄ちゃん、はっきり言うよ」
「なんだ?」
腰に手を当てて、星羅ははっきりと言います。
「キャラが暗い! もっと明るくポジティブに行こうよ! 私とお話しする時みたいに笑って! ほら! スマイル!」
そうです。星羅の不満。それは、湊の反応が暗いことです。
さっきからほかの生徒とあいさつしているのですが、湊はいまいち乗る気がない様子なのです。
はっきり言って――陰気です。
「い、いや待て、待てよ」
「待たない! お兄ちゃんさっきから何? クールぶってるのがカッコイイとかん違いしてる?」
湊が人見知りなはずはありません。そもそも、星羅に対してはいつものように超が付くほど甘いです。
「……何かあったの?」
星羅の目には、急に湊のキャラが変わったように見えます。
「まあ、これはなんていうか、プロデューサーの勧めなんだ」
「プロデューサー?」
「ああ。今放映してるドラマのプロデューサー。小野寺さんって言うんだ。今もいろいろお世話になっていてさ。その人のすすめなんだ」
星羅は首をかしげました。
「どういうこと?」
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