第52話 失敗したら消しとぶんだがぁ?
52
「ふぅ……」
これから作る魔道具に必要な機能は二つ。
一つはあの超がつくほどの膨大な魔力を安全に制御できるだけの高度な魔力操作機能。
もう一つは、神獣の代わりになるような膨大な魔力生産機能。
等級だけ見たら、僕の本気装備と同じ位になりそうだねぇ……。
まぁ、純粋な魔力を扱う装置だから、独自魔法の時みたいに細かい外力の計算はいらない。
その分いくらかは楽なはずだよ。
少なくとも、数日から数週間かけるなんてことにはならない。
いつあの魔力溜まりが暴発してもおかしくない状況だから、そこは幸いかねぇ。
「フェル、少しばかり血を分けてくれるかい? 神獣ラインカッツェの力を組み込みたいんだ」
「にゃぁ」
「うん。終わったら、いつもより多めにベーコンをあげるよ」
神獣たちはそれぞれ、何かしらの概念を司ってる。
神獣ラインカッツェの司るのは、その穢れなき猫の名前が意味するとおり、純潔。制御する魔力をより純度の高いものにして、制御を楽にするには最適な力だ。
ゲーム時代はほとんど意味のない、フレーバーテキストも同然の情報だったけど、人生、何が役に立つか分からないものだねぇ。
これを遠心分離機にかけて赤血球やら何やらを分離したあと、特殊な糸を漬け込み、魔導錬成のスキルを発動。純潔の概念を定着させる。
聖属性由来の素材と親和性の高い白竜系の、それも最上位、白神竜の素材を使って作った糸だ。問題は無いはず……。
「よし、上手くいったね。強度も必要十分」
これを魔力伝導率の非常に高い神鉄とミスリルの合金の針金とより合わせて、回路用の導線を作る。
これで制御用の魔力回路を作れば、そうそう誤作動は起こさないはずだ。
魔力回路の制作については大賢者の得意分野に入るから、あとは僕自身が判断を間違えないだけ。
制御する魔力量的に、自然魔力の吸収だけじゃ賄えない。
コスト的にその機能も組み込みはするけど、いくらかは動力源からひっぱらないとダメだねぇ。
制御用の魔力回路は、テンプレートを少し弄るだけでどうにかなる。
ただ、生半可な精度じゃいけない。
慎重に、慎重に……。
ああ、もう、心臓の音がうるさいねぇ。
「はぁぁぁ……」
よし、こんなところかなぁ?
「フィア、コペン、全力で結界を張ってもらっていいかい? 魔力回路はこっちで形成するから」
「にゃっ」
「んにゃっ!」
うん、さすがの出力。これなら最上位竜クラスのブレスでも防ぎきれる。
動作テストには、黒神竜の魔石を使おうか。白神竜と同じ最上位竜で、名前を持つような特殊個体じゃなくても推奨討伐ML三千四百五十のモンスターだ。テストには十分。
作った回路を通して魔石の魔力を制御し、ちょっと複雑な魔法の魔力回路を作ってみる。
僕のステータスは参照されないから、最悪、禁術でも大惨事にはならない。
「【ニヒリティソーンズ】」
光と闇の本来対消滅するはずの属性を複合し、大規模に召喚した巨大な荊に付与してぶつける魔法だ。
回路としてはかなり複雑になるから、これを自動制御できるなら最低限の要件はクリアしたと判断していいはず。
……うん、安定して発動してる。ただ余裕はなさそうだ。
一番重要な制御機構としては、不安だねぇ。
闇属性の強い黒神竜の魔石を使ってる影響に関しては、出ていないね。
神獣ラインカッツェの力を使った魔力の純化は一発で上手くいったみたいだ。
制御能力を弄るなら、ここか。
動力源から引っ張る魔力が多くなるけど、仕方ないねぇ。
「【ニヒリティソーンズ】」
……よし、さっきより余裕がありそうだ。
でもまだ安心できるラインじゃぁない。
もう少し弄らないと……。
「……ここが妥協ラインかねぇ。まだ少し不安だけど、これ以上は必要魔力量が多くなりすぎる」
あとは、強度の十分な動力源の受け皿が必要が。
回路に干渉しないように魔力伝導率が低く、かつ丈夫な素材か……。
「たしか、アダマンタイトと地神竜の鱗を混ぜると魔法耐性の高い金属になったねぇ……」
剛性ばかり高くて靱性が低いのは不安だけど、まぁ、今回は大丈夫なはず。
在庫は、インゴッド一つかぁ。足りないなぁ。
いや、待てよぉ?
魔力伝達の阻害なら、表面がその合金ならいいわけか。
なら、刀みたいに柔らかい金属をアダマンタイト合金で挟んだ構造がいい。靱性の問題を解決できる。
鍛冶師系のそれには及ばないけど、魔導錬成を併用すれば……、うん、いい感じだ。
あとは、元の魔力吸収装置とかみ合わせる部分。
ここは導線になるから神鉄とミスリルの合金で作るとして、大きさは、あの神獣に合わせないとか。
建築師のスキルはこういう時も便利だねぇ。
「…………できた、ねぇ」
「んにゃ?」
けっこうかかったねって、そりゃあねぇ。
むしろ、かなり早くできた方だと思うなぁ。
いや、神獣にそんなこと言っても仕方ないか。
「あとはこれと、あの神獣を入れ替えるだけだよ」
「にゃぁ?」
「方法は、位置を入れ替える魔剣師の魔法を使おうと思ってる」
後衛職と入れ替わって攻撃を代わりに受けるために使う魔法なんだけど、ほとんど同時に入れ替わるから、今回は最適だと思うんだよねぇ。
ただ――
「もしほんの少しでも位置がずれたら、ボン、だから、心の準備はしておいてねぇ」
「んにゃっ!?」
コペン、フィアの後ろに隠れたくらいじゃぁ意味ないよぉ?
「話は聞いてたね。そういうわけだから、僕の魔法を受け入れてくれるかい?」
首肯っと。
良かったよ。ここで拒否されたら、見方判定にならなくて魔法が失敗した可能性があるからねぇ。
ただ失敗するだけならいいけど、中途半端に発動したら、あの魔力溜まりが神獣の制御から離れて暴発する。
せっかく頑張ったんだから、そんなオチは歓迎したくないよねぇ。
「それじゃあ、三つ数えたら入れ替えるよぉ。心の準備は、もうできてるってことにするよぉ。一、二……」
さぁ、上手くいってちょうだいよぉ……!
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