第23話 エンドダンジョンに入っちゃったっぽいんだがぁ?
㉓
バフは、スタミナ減少軽減と移動速度上昇、それから感覚強化。
フィアたちの本気索敵にはこれでも及ばないけど、無いよりマシだから。
木々の隙間を縫い、草葉をかき分けながら一気に奥に進む、
ああ、何かが通った跡がちらほらあるねぇ。
だいたい、小中学生くらいの子供サイズの何かだ。
ますます可能性が高まったねぇ。
よくない。
今のところは幸い、交戦した様子がないから、運よくモンスターに出会わず進めてるんだろうねぇ。
いや、この辺りならまだ逃げ帰れただろうし、その騒ぎにフィアたちが気づけないはずがない。
運悪く、って言った方が良かったかもしれない。
おっと。
「リリア、大丈夫ですか!?」
「は、はい! なんとか!」
しかしこの様子じゃ、戦闘で振り落とされてもおかしくない。
仕方ない。
「【
「あ、ありがとうございます!」
フィアに縛り付けたから、これで少なくとも落ちることはないはず。
もうそろそろ中層。
ゲーム時代なら、初心者殺しって言われてたモンスターたちが出てくるエリアだ。
弱いエリアでも迂闊に奥に行くと危ないって教える運営側のやさしさだったんだけど、それは死んでもリスポーン、生き返られるプレイヤーたちにとっての話。
住人にとっては、ただの死地なんだよねぇ。
理想を言えばこのあたりで見つけたい。
でも、無理だろうねぇ。
昨日からいないなら、彼らの足でも深層エリアには辿り着いてる。
下手をすれば、奥地、フォレストオーガジェネラルやロック鳥のような高レベルモンスターが出てくるエリアにいる可能性もある。
いや、もっと酷い可能性もあるねぇ。
「ダンジョンにだけは入っててくれないでねぇ……!」
――この気配、オークジェネラルだ。
ていうことはもう深層。
ここまで臭いを捉えられないってことは、風向きからしても、まず間違いなく奥地にいる。
「【ウィンドカッター】」
オークは目視する前に間の木ごと切り裂く。
コペンが未練がましく見てるけど、回収はなし。
彼もそういう状況じゃないのは分かってるみたいだ。
「にゃっ!」
「見つけたかい!? 案内頼むよ!」
前に移動したフィアを追いかけて、少し方向を変える。
この方角は……。
「最悪のパターンだねぇ、これは……」
ダンジョンがある方だ。
それも、カンストプレイヤー用のエンドコンテンツダンジョン。
『光の神塔』
全九百九十九階層とかいう、運営のおふざけみたいな規模のダンジョンだ。
塔の癖に一階層もばかみたいに拾い上、各層にボスがいるから当時かなり叩かれていたのを覚えてる。
「な、なんですか、あの塔!? あんな高い塔、村の防壁からでも見たことないですよ!」
「でしょうねぇ! ある程度近くまで来ないと見えない結界に覆われてるんですよ!」
フィアは、まっすぐダンジョンに向かってるねぇ、これは。
覚悟を決めないとダメか……。
「リリア、あそこは、この世界で最も難度の高いダンジョンの一つです。色んな意味で覚悟は決めておいてください」
「……っ! は、はい……」
気休めは、逆効果でしょう。
さて、そろそろ入り口のはずだけど……。
うん?
あれは……。
「止まってください。焚火の跡です」
「もしかしてレイたちの……!」
「おそらくはそうでしょう」
まだ新しい。
たぶん、ダンジョンと分からないまでも危ない気配は感じ取ったんだろうね。
しっかり体力を回復させてから入ろうとしたんだと思う。
これならまだそんなに奥には行ってないはず。
間に合うかもしれない。
「これからこのダンジョンに入ります。リリアは――」
「ついて行きます! 足手まといなのは分かってますけど、ついて行かせてください! お願いします!」
「ええ、最初からそのつもりです。この広大なダンジョンの中から彼らを見つけるにはフィアの鼻は不可欠ですから」
コペンとここに残すにしても、まだ幼い彼ではここらの魔物からリリアを守り切るのは難しい。
レイたちはよくもまあ、ここまで辿り着けたものだねぇ。
ともかく、ここに入るなら隠者コスじゃ心許ない。
本気装備に着替えようか。
マイセットで黒地に銀の刺繍が施されたシックなスーツと、古木に大きなエメラルドを取り付けた杖呼び出し、気合を入れ直す。
マグ・メルの祝衣と、オベイロンの宝杖の名を持った神器級のこの装備なら、このダンジョンでもまったく問題ない。
それから、髪をかき上げてオールバックに。
これをすると、意識が完全に仕事モードに切り替わるんだ。
「先生、かっこいい……」
「ありがとう。それじゃあ、行くよ」
「は、はい!」
いざ、ダンジョンの中へ。
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