ナンバー421

 数日後。


 最高裁にて、殺山ころすやまの裁判が行われていた。


 ジョンは、キリスト的なアレで死後蘇ったらしい。救世主の勘的なアレで悪霊の気配を察知し、念の為手榴弾を持っていきつつ辿ってゆくと殺山ころすやま鏖殺神みなごろしんを見つけたのだという。

 神と科学がどうのと言っておいて、過去信仰側が未来科学側の道具を使ってるのはどうなんだ、と殺山ころすやまは訝しんだ。


 なんにせよ。そういう訳なので、結果として殺山ころすやまは米軍とジョンに囲まれ詰みの状態に持っていかれた。


 かくて、殺山ころすやまは捕まり、第三審を受けることになったのである。


「被告はジョン氏をナイフで滅多刺しにして殺害した上に、当時同じホテルにいた女性にその罪を被せようとしました。到底許されることではありません。検察側としては死刑を求刑致します」


 そう言ったのは、お馴染みの検察官の死罪求しざいきゅう 権蔵ごんぞう。この道50年のでえベテランである。


「オーウ、コレは否定デキマセーン。弁護側としては死刑でいいと思うデース」


 そう言ったのは、弁護士のヨハン。この道一年のノットベテランである。やる気が無い。


 ───カンカンッ!


「静粛に」


 既に静粛であったのにも関わらずそう言ってガベルを叩いたのは、お馴染みの裁判長のだま れいである。この道130年の大大大大大でえでえでえでえでえベテランである。


(頼むぞ……)


 殺山ころすやまは静かに祈る。

 と、権蔵ごんぞうが自らの主張の根拠となる証拠を提示する。


「えー、先程配布した資料にありますように、犯行の様子がホテルの防犯カメラに映っております。また、現場に残っていた凶器と被告の指紋は100%一致し、被害者が遺したダイイングメッセージには"ころすやま"と書かれております」


 ヨハンは反論を試みない。


「その通りデース。被告はカスデース」


 ───カンカンカンッ!


「静粛に」


 れいはガベルを叩き、既に落ち着いているヨハンを落ち着かせると、言う。


「弁護人、反論はありますか?」


「無いデース」


(最悪だ……! これなら、まだ弁護しようとする分屁多へた糞郎くそろうの方がまだマシだった……!!)


 どうしたものか、一か八か、やはり介入を試みるかと殺山ころすやまが考えていると───




 ───バァン!!!




「───ちょっと待ったァ!!」


「───お、お前らは……!」




 威勢のいい声とともに法廷の扉が勢いよく開かれ、何人もの人がぞろぞろと乱入してくる。彼ら彼女らは、殺山ころすやまと特に縁の深い人物───ジョン、トム、メアリー、座簿ざぼやまさん、さん、屁多へた糞郎くそろう、お坊さん、祠を壊した時に話しかけてきた老人、殺山ころすやまを十字架に括り付けた村人たちであった。




「「「オイラ/俺/私/儂たちが 来た!!」」」


「……お、お前ら……!」




 どこかで聞いたようなセリフを吐き、彼らは一斉に法廷に侵入する。が、



 ───ガァンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「黙れや、調子に乗るなよ司法試験も受かれねぇカスどもが!!!!!! 出しゃばってンじゃねぇよ!!!!!!!! 何様のつもりだよ、あァ!?!?!?!?」


 そんなこと法秩序の侮辱を、だま れいは許さない。ガベルを机に叩きつけ、暴力的な声量で怒鳴る。


「オイラたちは」


「正義を成すために」


「ここにいるの」


「ですわ!!」


 だが、正義に燃えるburning with justice彼らは決して怯まない。


「……お、お前ら……!」


 殺山ころすやまは感動し、じんわりと目頭が熱くなるのを感じた。

 愛と、正義と、友愛の勝利だ。

 彼が人々と培ってきた絆は、巡り巡って彼を救う。



 だからこそ、人は出逢いを奇跡と呼ぶのだろう。


 だからこそ、人は繋がりを大事にするのだろう。



 人と人とがめぐり逢い、そうして段々と紡がれる繋がりの"糸"は───始めは、か細くとも───やがてダイヤモンドよりも堅くなり、例え地獄からも人を救い出す"蜘蛛の糸"となるのである。



 ジョンたちは警備員の制止も振り切り、爆炎のような勢いで法廷になだれ込む。そして全員が法廷に入り切ると───勢いよく死罪求しざいきゅう 権蔵ごんぞうの側に立った。


「え?」

「え?」

「え?」

「え?」


 裁判長、検察官、弁護士、被告の全員の心境が一致した瞬間であった。

 被告が紛らわしい顔をするのが悪い。


「オイラは、『なんとなく殺したくなったから、あと金が欲しいから』という理由で殺されました!!」

「私は、罪を着せようとされましたわ!!」

「俺は、こいつにあたかも優秀な私立探偵であるかのように振る舞われ、殺人鬼を賞賛するハメになりました!! うおォーッ! 生涯の恥だぜェーッ!!」

「私は、殺山ころすやまを取り押さえた時、暴れられて軽傷を負いました!!」

「俺は、こいつに特に何かされてはいません!!」

「儂は、弁護が下手糞だの辞めろだのと散々罵倒された挙句、弁護人をクビにされました!!」

「俺は、特に何もされていません!!」

「儂は、村の大事な祠が壊されました!!」

「「「同上です!!」」」


 と、乱入者たちがしきりに殺山ころすやまの罪を告発すると、全員が一斉に裁判長に向かい、


「「「「「「「「「「「「裁判長! どうか、こいつを死刑にしてください!!!」」」」」」」」」」」」


 と請願した。



「……そうですか。では、評議に移ります。皆様退出をお願いします」



 その声とともに、ヨハンと権蔵ごんぞうは退出した。

 殺山ころすやまも絶望した表情を浮かべて退出した。


「───おいっ、お前らも退出するんだよ……!」


 体勢を整えた警備員たちが乱入者たちに近づき、一斉に法廷から離す。

 彼らは抵抗し、最後の最後まで請願する。


「お願いします! 殺山ころすやまを死刑にしてください!!」

「どうか、どうか……!」

「正義を成すためと思って!」

「良心を信じてください!」

「殺せ…! 殺せェー…ッ!」


 彼ら彼女らが退出したのは、それから30分あまりのことであった。



 ♢



 2分後。評議が終わり、被告とその他諸々が法廷に入る。


「主文は後回しにします」


 裁判長は最初にこう述べ、判決の言い渡しをはじめた。会場がかつてないほどに沸く。フェスかってぐらいに沸く。




「理由として、被告の殺人や証拠の捏造を否認する材料が存在せず、被告の有罪が全面的に認められたためです」




 会場が更に沸く。周囲の熱は最高潮に高まり、人々はこの先への期待感に大きくざわめく。




 ───カンカンッ!




「静粛に」




 その一言で、場はしん…と静まる。




 そして、主文を言い渡す。
























































































































「主文、被告人は死刑」


































































「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」



「いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 かくて、裁判───後に、殺山ころすやま裁判と呼ばれる裁判───は終結した。


 以上を以て、一連の騒動は幕を閉じた。









 ~完~






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る