コンビニふたり【仮】
泥の中でみつけた
第1話 新歓コンパ
つい数ヶ月前まで学校と予備校と家の往復を続けるだけの毎日だったというのに____。
壮観だ。
居酒屋のフロア一体にはソワソワとした多数の新入生と、張り切って世話を焼く学生でいっぱいだった。俺は案内された席に座り、目の前の取り皿と割り箸とおしぼりを見つめていた。
「あの、隣いい?」
いきなり話しかけられた。
いい?と聞きながらもう既に半分腰掛けている。痩せて、茶髪に、黒いマスクをつけている男だった。
「あ、うん。どうぞどうぞ」
「ありがとう。あ、経済の
その男が挨拶をした。
「あ、経営の
俺も慌てて返す。
「川戸くん経営なんだね。なんか緊張しちゃうね、他の新歓いった?というか今日は1人?」
「……緊張するよね。他はまだ行ってない。本当は誘ってきた学科の人もいたんだけど、直前でやっぱり他行くって…だから1人。羽田くんは?」
正直に答えてしまった。
まったく、なんなんだよあいつ。
約束なんてどうでもいいタイプのやつって見抜けなかった。誘われたし、2人ならせっかくだから行ってみようと思ったのに、直前で1人だ。
俺はコミュ力があるタイプでもないし、こんな知らない人ばかりのとこに飛び込むなんて自分からは絶対にしない。
今回はただ、新歓コンパのグループラインから抜けるのも面倒で流れで来てしまっただけだ。
「あーそうだったんだ。僕も1人なんだよね。友達作れたらなーと思って色々まわってるとこ。そうだ川戸くんLINE交換しない?」
…思ったよりグイグイくるな。なんとなく"あいつ"側の空気がする。そもそも、「僕"も"1人」って言うけど、俺の1人とは違うだろ。も、じゃないだろ。こうやって色んな人にとりあえずLINE聞くんだろうな。
頭数かな?はいはい。
「あー、やだったらいいんだよ!まだ全然話してないしね」
「えっ?いやいや、交換でき、交換しよ!」
……まずい、顔に出てたのかもしれない。取り繕うように交換しよなんて言ってしまった。
羽田はグループラインのリストから俺の名前を見つけ、これ?と確認した後さっと友達追加ボタンを押した。簡単なもんだよなぁ。
こう言ったら誤解がありそうだが、受験期のほうがよっぽど楽だった。
何に悩んでも、とにかく「勉強すれば」解決できたからだ。
周りに求められるのも要するに「勉強しろ」で、それさえやっていれば許された。
人間関係なんて考えなくてもよかった。
それで、こうなる_____。
分かっている。ここにいる俺以外の大半の人間は俺より器用で、当たり前に勉強以外のスキルだって磨いてきたんだよな。
そんなことを考えていると、羽田のスマホからけたたましい音が鳴った。
「うわっ!店長から電話だわ最悪。川戸くんまたね!俺帰んなきゃいけなくなった!まじかよ〜」
羽田は焦った様子で俺に言い席を立った。
「う、うん。じゃあ」
俺はまた気の利いたことも言わずただ返した。
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結局、その後は適当に理由をつけて新歓コンパからは撤退。羽田以外とは特に連絡先も交換せず、収穫ゼロで帰路についた。
バイトか。そろそろ俺も考えてみるか____。
帰りの電車の中でぼんやり考えた。
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