新旧の魔道具
「疲れてる?」
公女の相手をするため、今日の仕事は休み。
そのため、執務室には行かずにレイの自室に向かった。
シンプルで必要最低限な物しか置いていない。
食事をして、寝るためだけの部屋。
本だけはかなり充実している。
「あーー……好かれた?公女様に」
図星だったのか盛大なため息をついた。
あれは本当にめんどくさいときのやつだ。
ソファーにもたれかかって天井を見てはすぐに
「それで?魔道具とは?」
「ユファンに渡してる転移魔道具のことなんだけど」
「そろそろ壊れる頃だろうな」
「はい?」
元々、ユファンに渡したのは古いタイプらしく、長い間、使い続ければ壊れてくる。
それはさぁ。もっと早くに言うべきだったよね。
というか!渡したその日にさ。
よく今まで黙ってたよね。流石は意地悪な性格の持ち主。
「よくてあと一~二回が限界だろう」
「えーー。作ってよ。じゃあ」
「完成はしているが、渡したくはなくなった」
「何でよ!?」
「冗談だ」
笑いながら棚に置いてある箱を取る。
中身は、何を改良したのか全くわからない、現在使っている魔道具と同じ形をしていた。
シンプルにこだわってもいいけど、素人目にも変わった!とわかるようにして欲しいな。
「先にシオンの魔力を登録しておけ。新型は登録した魔力の持ち主の元に着くようにしてある」
「そうなんだ、ありがとう!」
旧型は私の家にしか来られないから、留守にしているときとか、かなり待たせたりもした。
国境を超えたら通信魔道具も使えない。
改良を頑張ってはいるみたいだけど、国境という名の壁は厚いようだ。
「で、一つだけ?私がユファンのほうに行くのは無理なの?」
「は?」
「ねぇ、怖い」
シャレが通じないなぁ。
ピリついた空気を和らげようと、ボケただけなのに本気の怒り。
「シオンは帰りたいのか。あの国に」
あまりにも真剣だったから。
不安や迷いはなく、純粋に私のためを思って聞いてくれている。
レイの望まぬ答えを出したとしても、きっと叶えてくれようとするのだろう。
そういう優しさを持った人が集まったのがこの、リーネットだから。
「私からもユファンに会いに行きたいだけよ」
友達なのに、いつも来てもらってばかり。
たまには私から会いに行きたいと思うときだってある。
心が痛くなるような思い出しかない国に、帰りたいわけがない。
行って、誰かに見つかりでもしたら厄介なことになると踏んで、レイはあまりいい顔をしない。
許可が得られると思っていたわけでもないから、この話はこれで終わり。
「次にレディーが来たときにでも渡してやるといい」
「ユファンのことは名前で呼ばないの?」
「呼ぶ必要がないだろ」
「そんなに警戒しなくても、ユファンはレイのことを好きにならないよ」
「単に呼びたくないだけだ」
「そっか」
本人がそう言うのなら仕方ない。無理強いはやめておく。
「もしもさ」
「その話は今、聞かなくてはいけないのか?」
「レイの許可があれば、大抵のことは許されるからね」
「聞くだけだ。話してみろ」
「ユファンがリーネットに移住したいって言ったら、どうする?」
「本人が望むのなら、許可はしてやる」
ユファンは望まなかった。
新しい国で新しい居場所を作ることを。
自らの罪を背負って、未来も希望もないあの国で生きることを選んだ。
根っこからある芯の強さ。堂々と悪に立ち向かえる勇気を秘めている。
魔法は自分の一部であり、魔力を制御出来ずに暴走させてしまったのなら、持ち主である自分が
違うのに。シオンが私になったから。だから……ユファンは望まぬ魔法を手に入れ、自らの意志とは関係なく周りを魅了した。
責められるべきは私だ。
「ところで。ノアールはどうした」
私の空気が重くなりつつあるのを感じたのか、別の話題へと変えてくれる。
「今日はリンゴが食べたい気分だからって、私の腕をすり抜けて行っちゃった」
風の速さだったため、止める暇もなかった。
王宮内にいることだし、何かあれば空間魔法で戻ってこられる。
すれ違う人もノアールのことが大好きだし、不安要素は全くない。
若干、不機嫌な人がここにいるだけ。
───私よりノアールのほうが好きだよね。絶対。
「そうだ。レイにこれあげる。ノアール型のクッキー」
「……誰が作った?」
「そんな嫌そうにしなくてもメイだよ!!」
エノクと付き合っていたメイは二ヵ月前に結婚式を挙げた。
あまり大規模になることを恐れて、多くの人を呼ばない、こぢんまりとした式。
全力で盛大に盛り上げる王族がいるからね。
派手なものを好まないと説得して、どうにか協力は免れた。
式の前には沢山の祝福を貰っていたから、小さくても寂しくはない。
結婚して二人はモーイの街に新居を構えた。
騎士寮に住んでいたエノクは「新婚は家に帰れ」と追い出される始末。
悪意はなく、全員の顔が笑っていたことから、それも祝福の一種だったのだろう。
今や私はあの家で、ノアールと二人暮らし。
生活に関しては魔道具があるので困りはしない。
問題があるとすれば料理。
お母さんの手伝いを、もうちょっとしておけば良かったと後悔ばかり。
メイが料理を作り置きしてくれるので助かってはいるものの、これからはそうはいかない。
二人に子供が生まれたのだ!
女の子で、名前はエイメ。
最近ようやく、歩き始めたところ。
トテトテと効果音が似合いそうな歩き方は微笑ましい。
私を見ると、にぱぁと笑いながら両手を広げては走ってきてくれる。
ギューッと抱きしめれば「ねーねー」と大喜び。
子育てと家事。仕事もしているメイの手を、私が煩わせていいはずがなく、今は自炊を頑張っている。
「ねぇ、ローズにはもう会いに行っていいの?」
スウェロとリズの娘。一つ上には息子のウェスリーがいる。
二人とも仲が良く、喧嘩なんてまだ一度もしたことがない。
成長したらするかもしれないけど、今の感じならずっと仲が良さそうなのよね。
「まだ魔力は安定していない。もうしばらくは無理だ」
王族の血を引く子供は早くから魔力暴走を起こす。
リズが傍にいるから万一のことにはならない。
貴族なら誰でも通る道。大袈裟に心配することではないのだ。
頭では理解していても、ついつい心配するのが親という生き物。
平常を装うスウェロは仕事に没頭していないと、気が気でない。
──親なら、ね……。
私のことを心底嫌っていたし、そもそも親ですらなかった。
心配して欲しかったなんて、そんなこと……。
「覚えておく価値のない記憶は早く忘れろ」
「頑張ってるんだよ、これでも」
ふとした瞬間、不意に思い出すだけで。
それまでは記憶の片隅にも存在していない。
幸せな日々が上書きしてくれている。
それってさ。忘れてるのと同じでしょ?
「ところでシオン。私の記憶違いならいいのだが」
「うん?どうしたの?」
「昼過ぎにフェルバー商会に行くと言っていなかったか」
「…………忘れてた!!ユファンのことで頭がいっぱいだったから。え、どうしよう!?」
「今からでも行けばいいだろ」
「そうだね。ごめん、ありがとう!!」
「相変わらず慌ただしいな」
小バカにした言葉が聞こえたけど、無視だ無視。
「あ!!もしノアールが来たら」
「あとで送り届ける。早く行け」
約束をすっかり忘れていたことで、相当テンパっていた。
レイに頼んでナンシーに連絡を取ってもらい、空間を繋いでもらえば一瞬で着くというのに。
私が全力で走っているから、何事かとすれ違う人達が聞いてくる。
説明している暇も、立ち止まる余裕もなく、「急いでいるから」としか答えようがない。
体力を全て出し切って、足が悲鳴を上げる頃、店に辿り着いた。
「ご、ごめ……ブレッ……遅くなって」
息を整える間もなく扉を開けると、言葉を失う光景が目に飛び込んできた。
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