TS転生者の生存戦略〜Transsexual Reincarnation's Survival Strategy〜

mitsuzo

プロローグ

第1話001「前世ニートな俺がTS転生果たすまで(1)」



 俺の名は、多田ただ 誠士せいじ


 どこにでもいる、ごく普通の『TS転生ものラノベオタク』だ。


 そんな俺には夢があった⋯⋯「いつか異世界にTS転生したい」という夢が。


 それはもうガチのガチで、どれだけガチかというと成人してから30歳の今まで、


「マジで異世界転生させてください。願わくばTS転生を所望!」


 と、毎夜祈りを捧げるほどのガチ勢である。



 そしたら30歳誕生日の夜——夢が叶った。



 というわけで、童貞のまま30歳まで祈り続けたら魔法使いではなく異世界にTS転生されました。ラノベタイトルばりのファンタジー現象である。


「事実は小説よりも奇なり」


 とはよく言ったもので。



********************



 俺が異世界に転生される前——つまり前世である日本での人生は、毒親のもと虐待に近いようなネグレクト環境で育った⋯⋯⋯⋯などということはなく、公務員の両親と2つ違いの妹を持つ、ごく普通の一般家庭で育ったごく普通の30歳ニートである。


 現在では結婚して子供もいる妹から「おいニート。うちの娘に近づいたら殺すからな」などと脅迫まがいな言葉を投げかけられていた。


 まったく、こいつは何を勘違いしているのだろう⋯⋯。俺はただのTS転生ものラノベオタクであってロリコンではないのだ(ここ大事。試験に出ます)。


 たしかに、TS転生ものに出てくるヒロインでロリコン容姿は多いかもしれんが、しかし、それは俺の『本懐』ではない。


 大事なのは『中身男なのに美少女』という『性別逆転ギャップ萌え』⋯⋯これなのだ!


 それがなぜわからない!


 全くもって不本意である(ぷんすこ)。


 とはいえ、世間一般からすれば俺みたいな奴は『ロリコン変態野郎』と一括りにされるのも理解できる。なぜなら、日本のアニメ・漫画・ゲーム・ラノベといった二次元コンテンツは得てしてロリキャラが多いのだから。


 おまけに、俺は現在無職のニートであり、そんな奴の趣味が『二次元コンテンツオタク』と来れば、そりゃ妹が全身全霊をもって娘を守るムーブをかましてくるのも理解できる。


 ちなみに、俺の妹はアニメやラノベに出てくるような理想の『お兄ちゃんムーブ』など一切ない。何ならニートになった俺に対して『社会のゴミ』と罵ってくるのが現実だ。


 小学校低学年の頃は「お兄ちゃん!」と、俺の後ろからとてとて嬉しそうについてきていたが、中学になって俺が引きこもるようになると少しずつ避けるようになり、高校生になった頃には「この社会のゴミ!」と普通に言われるようになるほど、もはや修復できない関係となっていた。



********************



 両親二人とも公務員というそれなりの『親ガチャ』を引いた俺の暮らしは周囲に比べたらだいぶマシだったと思う。まーそのおかげか原因かは知らんが、俺が5年生に上がった途端いじめを受けた。


 いじめの内容は『クラスメート全員からの無視』。


 いじめにしてはそこまでハードな部類ではないだろうが、しかし俺にとっては効果テキメンでその頃から食事が喉を通らないくらいには精神的ストレスが溜まっていった。


 そので15キロのダイエットに成功した。別にダイエットが必要な体じゃなかったけど⋯⋯。


 そんな状況だったが、でも俺は頑張って登校した。というのも「6年生になればクラスが変わるから大丈夫」だと思っていたからだ。


 しかし、6年に上がってもクラスメートからの無視は続いた。なぜなら5年の時のクラスメートが6年に上がった他のクラスの生徒たちに俺を『無視』するよう指示したから。


 そんで、そいつらも嬉々として俺を無視した。


 というわけで、期待を見事破壊された俺の小学校最後の1年は——まさに地獄のような日々だった。今となっては懐かしい記憶である。


 そんな小学生時代を過ごした俺にとって、中学で学校に通うという選択肢はなかった。


 家によっては「学校に行け!」と無理矢理にでも登校させようとする親がほとんどだろうが、うちの両親はそんなことはなく、俺が学校でいじめられていたことを知ってか知らずか、俺の登校拒否に対して二人とも特に怒ったりすることもなければ無理矢理学校に行かせることもなかった。


 今、思えば両親は俺がいじめられていたことを知っていたんじゃないかと思う。


 自分の口からいじめのことを言わない俺を尊重して黙っていてくれたんだと思う。


 まー、それも今となってはの話ではあるが。



 こうして、俺のニート生活は始まった。



********************



 登校拒否を経験した奴ならわかると思うが、一度学校に行くのをやめると余計に学校へ行くのが怖くなるもので。


 そして俺もまたご多分に漏れず、高校生になる年齢になっても学校に通うことができず、ニートのまま20歳はたちの成人を迎えることとなる。


 その後も当然働きに出るなどできるわけもなくそのままニート生活は続いた。


 ちなみに妹に愛想を尽かされ始めたのが高校生あたりからで、成人した頃には完全に俺のことを『社会のゴミ』でも見るかのように完全に見下した目を向けるようになっていた。


 まー実際、面と向かって「社会のゴミ」と言われてもいたけどな。


 ただ、妹と違って両親だけはこんな社会のゴミであるニートな俺に対して見放すようなことはしなかった。それは俺にとってとてもありがたいことではあったが、ただ妹はそんな両親の俺への扱いにだいぶ不満があったようで、それが理由で両親とよく喧嘩していたのを覚えている。


 たしかに兄がニートなんて妹からしたら恥ずかしいし情けないと思うだろう。俺だって逆の立場ならそう思う。だからこそ、俺は妹に何を言われてもどんな扱いをされても何も言わなかった。⋯⋯言えなかった。



********************


本日「16:00」「21:00」に投稿します。

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