第5話 仲間との出会い
冒険者としての初依頼を終えて数日。
俺は依頼掲示板の前に立っていた。
壁一面に張られた羊皮紙。薬草採取や護衛依頼、小型モンスター討伐……様々な依頼が並んでいる。
だが、どれも一人では難しそうな内容だ。
(そろそろ、仲間を探すべきか……)
冒険者はパーティを組んで活動するのが基本。
一人ではできないことを補い合い、より大きな依頼に挑める。
そう頭で理解はしていても、心の奥で不安がよぎる。
学園での屈辱。笑われ、追放された記憶。
もしまた「落ちこぼれ」と見下されたら――。
「なぁ、そこの兄ちゃん。依頼を探してんのか?」
声をかけられ、振り向いた。
短く刈った赤髪に大剣を背負った青年が立っていた。二十歳前後だろう。
筋骨隆々の体格に、どこか豪快そうな笑み。
「俺はガイル。仲間を探してるんだが……どうだ? 一緒に組まないか?」
「……え?」
思わず間抜けな声が出た。
初対面で誘われるとは思っていなかった。
だが、横から冷笑が飛んだ。
「ガイル、本気か? そいつ、この前登録したばかりの新人だぞ」
「ゴブリン一匹倒しただけで調子に乗ってる、って噂だ」
数人の冒険者がにやにやと笑っている。
やっぱりか、と胸の奥が冷える。
ガイルは肩をすくめた。
「いいじゃねぇか。試してみりゃ分かる」
そう言うと、俺に向き直り、にやりと笑った。
「どうだ? 外に出て、一戦交えてみようぜ。実力を見せてくれりゃ、それで決める」
◆
街の外、訓練場として使われる広場。
ガイルが大剣を担ぎ、俺は枝の剣を握る。
「遠慮はいらねぇ。俺も本気じゃねぇから、安心しろ」
豪快に笑うガイル。
周囲には野次馬の冒険者たち。
「新人がボコられるのを見に来た」――そんな目で俺を見ている。
(……いい。見せてやる。俺が“落ちこぼれ”じゃないってことを)
「いくぞ!」
ガイルが地面を蹴った。
大剣が風を裂き、唸りを上げて振り下ろされる。
圧倒的な威圧感に思わず足がすくむ。だが、俺は枝を振り上げて受け止めた。
轟音。衝撃で腕が痺れる。
だが踏ん張れる。数日前の俺なら吹き飛ばされていただろう。
――【微成長】発動。累積成長+1。
【体力:D+ → C】
力が漲る。
俺は枝を滑らせ、大剣を押し返す。
「おっ……?」
ガイルの目が驚きに見開かれる。
その隙を逃さず、横薙ぎの一撃を繰り出した。
ガキィン!
枝と大剣がぶつかり、火花が散る。
周囲がざわめいた。
「おい、互角に渡り合ってるぞ……!」
「まさか新人が……?」
俺の心臓は爆発しそうに打ち鳴る。だが、全身に確かな実感がある。
努力は嘘をつかない。戦えば強くなれる。
「このっ!」
ガイルがさらに力を込める。
俺は歯を食いしばり、渾身の突きを繰り出した。
大剣が押し返され、ガイルの胸元に枝の先が突きつけられる。
一瞬の沈黙。
やがてガイルは豪快に笑った。
「ははっ! やるじゃねぇか、新人!」
周囲がどよめく。馬鹿にしていた冒険者たちの顔が引き攣っている。
「お前、ただの噂じゃねぇな。本物だ。……気に入った! 一緒に組もうぜ!」
差し出された手を見つめる。
俺はゆっくりと、その手を握り返した。
「……ああ、よろしく頼む」
ざまぁ、と胸の奥で呟く。
笑っていた連中は今、言葉を失っている。
その視線が心地よい。
(これからだ。俺の物語は、まだ始まったばかりだ)
◆
こうして俺は、初めての仲間を得た。
落ちこぼれと呼ばれた少年は、確かに一歩を踏み出したのだ。
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