第十一話 短剣

 作業中、ウリャーナがやってきた。


「草刈り大変そうね。手伝うわ」


ウリャーナが短剣を抜くと、刀身がシーンと煌めき、刻字が露わとなった。


「ウリャーナ。ソレ、何って書いテあル?」


素朴な疑問だ。歴史に残る刀剣類の装飾で刀身に彫刻を施された刀や剣は珍しくはない。日本刀も茎に作者が銘を刻み込むことがあった。だが、それらは貴族やよほど有名な名工によってのみ施されることがほとんどであり、その理論から、ウリャーナの刀身に彫りが施されていることが不思議で仕方がなかった。


「ホピス・ラー・ブレェーア・ウー・プルゥ・ベン・トォッ。最後に吸い出す血が私のであらんことをって書いてあるんだ」


「ウリャーナの特別ナ短剣。最後ニ、ウリャーナが死んだラ破壊サレルのか」


くすっと笑い刀身を眺める小女。


「少し違うわ。これは私が受け継いだの。お母さんもそのお母さんからずっと。これはね、自決用の呪文よ」


背筋が凍った。


「私のお母さん、この国、ノゼスの民じゃないの。ここから遠いところの、たしかヤティツカヤの民なんだ。そこでは、自決した者の使った物を使うことがタブーなの。特に女性の刃物は、自決に使われた後だと破壊されるわ。使用者と道具を結ぶ契約のおまじないね。だからこの子が吸う最後の血は、私が所有者であり続ける限り、私」


(この家の女性たちはちょっとたくましすぎないか。それがこの国の女性の特徴なのか、それとも彼女たちだけなのか…)


「スマナイ。イヤなコト、聞いタ」


ケロッとした様子で手をブンブンと振る彼女。


「いいよ。いいよ。気にしないで。代わりにさぁ、ヨウヘーの国のこと教えてよ。私、ヨウヘーのこと知りたいし」


「ソウか…何ガ知りたイ?」


「そうねぇ。ヨウヘーの国ってなんて名前なの?どんなところ?」


少し口をつぐんでしまう。日本を出て何年経つだろうか。


「ニホン。ニホンっテ言ウ。ドンナ所…よく覚えテナイ。オレ、国にずっと帰ってイナイ。アト、ココニ来てカラの記憶、アヤフヤ」


「そうなんだぁ…じゃぁ生まれ故郷とか忘れちゃったか」



故郷…

 そんなものあったかどうかすら覚えていない。覚えているのは、正義感?だろうか。すぐに突っ走ってしまうことくらい。考える前に体が勝手に動いてしまい、結局トラブルに巻き込まれてばっかりだった。よく喧嘩してたなぁ…


「オレよくケンカしてタ」


「悪童じゃん」


「悪イ思ってナイ。全部悪いヤツらとダ。お金奪おうトしてたヤツ、弱いモノイジメしてたヤツとか…」


「だから、ヨウヘーってあんなに強いんだぁ。それに銃士だもんね」


「アト…ソウ。海が近かっタ。覚えてル」


「海!? 良いなぁ。ねぇ、海ってどんなの。塩が採れるのは知ってるけど、あと魚」


「海。海ノ匂イする。ソレが風に乗ってフワッと。夏の季節は爽ヤカ。デモ、鉄スグ錆びル」


「ウリャーナぁ。おしゃべりするのは良いけど、仕事手伝うなら手を動かして頂戴。ヨウヘーは休んでていいわよ」


「あ~。ヨウヘーだけひいきしてずるい」


「洋平は朝からずっと頑張ってくれてるのよぉ。ひいきだなんて、聞き捨てならないわぁ。このこの…」


こめかみをグリグリされて悶えるウリャーナを微笑ましそうに洋平は眺めていた。



一方その頃…


「ぐっ、くっそぉ。揺れるたびに軋みやがる…あいつら許さねぇ」


片手で手綱を握り、ぷらぷらの腕を垂らして走らせるダン。ボーは不明瞭な音を唸りながら悪態をついている。


「舐められっぱなしじゃぁ気がすまねぇ、そうだよなぁ」


「ふひょはへはぁー(くそったれがぁー)」


「とにかく医者だ。医者のところ寄るぞ」




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