道程

気が付くと朝になっていた。俺は丘で寝こけたようだ。

とりあえず帰ろう。

歩こうとすると、すっ転んだ。

メッチャ土埃が付いたが、今の俺には些細なこと過ぎて気にも留めなかった。


あの魔法は何だろうか?

それだけが頭の中を廻る。


家に着いた頃には日が真上にあった。

両親はカンカンに怒っていたが、一言も、一文字たりとも俺の脳には入らなかった。


説教が終わり次第、俺は部屋の簡易なベットに身を投げる。

頭の中はあの魔法でいっぱいだ。

それと同時にあの魔法を撃った奴にも興味がわいた。


あの魔法を知るにはどうすればいいだろうか?

あの魔法を知るにはどこに行けばいいのだろうか?

そもそもあの魔法は誰が撃ったんだ?


『知りたい!知りたい!!』

そんな思いが俺の体中を駆け巡る。


そんな時、マイア姉さんが俺のことを見に来た。


「あなたどこほっつき歩いてたの?」

「龍に襲われて、丘で寝てた。」

「時系列を整えなさい、このバカ。そもそもあなたが龍をどうにかできるわけないでしょ」

「そりゃそうだ」

「・・・あなた自分が言ってることわかっているの?」

「いや全然」


今この時も脳の隅から隅まであの魔法のことだ。

マイア姉さんの話は1%あればいい方だ。


「あっそ。私たちの受験だけは邪魔しないで頂戴ね」


今なんて言ったんだ??

多分、受験の邪魔をするなという旨のことを発してマイア姉さんは出て行った。

姉さんたちは基本的に優しいけど、最近ずっとあんな感じだ。両親もだけど。

受験だからなぁ。仕方ないよなぁ。


「・・・・・・ん?受験?どこに?」


決まってる。この世界最大規模の学術機関たる学院だ。


そこには誰がいる?

学院は世界最高峰の魔術研究機関を兼ねている。つまり、最高峰の魔術の研究者がいる。


そこには何がある?

学院には魔術的にも歴史的にも価値がある蔵書がたくさんある。

末の姉さんが学院の見学で狂喜乱舞してたことからもわかる。

ただ十中八九、模造品レプリカだろうな。


だがそんなことはどうでもいい!!

学院は知識の宝庫!!

つまり・・・・


「俺の疑問を一気に解決する場所だぁあああ!!!!!」

「「「「「「「うるさぁあああい!!!!!!!」」」」」」」


よし、決めた。

俺は学院に入学する。



簡潔に言おう。

姉さんたちは無事、学院の試験に合格した。それも全員。


我が家は七人同時合格という異例の快挙を迎えたということで、両方の祖父母を含めたほぼすべての親族が集まった。


武闘派な姉はうれしさの余り俺を力いっぱい、俺の骨が数本折れたくらいに力強く抱きしめた。


その後痛みに耐えながら、自分で治癒魔法をかけてみたが、治らなかった。

つまり、俺は治癒魔法の適正はない。

それどころか逆に骨がさらに数本消え失せ、さらなる激痛が走った。


俺はその件で、空間系の適正(仮)の可能性があるらしい、多分、きっと、Maybe。そして、俺は二度と自力で傷は治さないと誓った。


そしてもう一つ、折れた部分を執拗にいじめてきた又従弟のガキだけは許さない。二度とな!!


姉さんたちは何事もなく全員入学した。

魔法の練習中、前世の世界でいう伝書バトみたいなやつを一匹殺めてしまい、両親の拳骨を喰らった。

俺が学院に入学して見せるというと両親は、大笑いしやがった。

まぁ、今までろくに勉強しなかった息子が「スタンフォード大学かハーバード大学に行く(意訳)」って言っているようなもんだし、仕方ないといえば仕方ない。

両親が笑いながら、上の姉のお古の参考書等々を渡してきたことは一生忘れない。


それから俺は春夏秋冬、朝昼晩、雪が降ろうと、雨が降ろうと、睡眠不足で幻覚を見ようとも学院入学のために前世を含めて俺史上最大の努力をした。


一年後、姉さんたちは無事に進級した。

武闘派の姉さんの進級が危なかったと聞いたときは腹を抱えて笑ったが、どこから聞きつけたのか、突如として帰省した姉に半殺しにされた。

姉さん、いくら怒ってても可愛い弟に首切り包丁みたいなの武骨な武器を振るうのはさすがに・・・峰打ちだから大丈夫?・・・そうですか。

それでも骨折十数本骨折はイカれているだろ!?


姉さんの進級ごとに成果を書き連ねるのはどうかと思ってきた今日この頃。

姉さん達が三年生になった。

唯一、武闘派の姉が停学を食らったそう。

なんでも貴族だか何だかの子息になんかしたらしい。

その姉曰く、「ルール順守したうえで我を通した結果」だそうで・・・権威主義的な貴族も、地位関係なく我を通す姉も怖い。

最近、筆記試験に詰まっている。

魔法は大体できるようになった。それでも偏りが激しいけど。

筆記の何がヤベェって前世で名高い科挙、ソレの一つ下レベルの文章量を覚えろってんだからさぁ。

まぁ、ほとんど詠唱のなんかだから科挙よりも覚えやすいのか?


姉さんたちが四年生になった。

彼氏ができたとか、友達と旅行に行ったとか、年相応というかなんというか雑多な日常以外のことを手紙に書き始めてきた。

末の姉さんは占星術の本を送ってきた。なんでも面白かったとか。

姉さんには悪いがあまり面白くもなく、例の魔法のことは書いてなかった。

この年になると味わったことのない緊張が全身に走るようになった。

ついに入試本番。

どうなるか。



筆記試験、実技試験と両方とも意外と乗り越えられたと思ってた今日この頃。

ついに結果が発表された。


はっきり言って受かった。

ヨッシャ!!!!!


前世の高校入試を思い出した。あの時はフッツーに不合格だった。

努力不足だったのだと思う。まぁ、比較対象にもなりはしないが・・・・

そんなこんなで学院に入学することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る