第40話 白い光の中に
「ふん」
普通のプレイヤーならば命中するであろう一撃。しかし相手がキリュウとなれば話は違う。
彼は飛び退くと同時に剣で空を切ることで不可視の刃を弾いている。
そんなことなど分かっていたかのようにニヴァーチェは迫撃を行う。
目の前の相手が理不尽だと直感で理解した彼はどんな状況でさえ攻め立てることを決めた。
彼に問ってキリュウというプレイヤーはチートを使わなければ同じ土俵にさえ立てない人間だ。
「オリオンショット」
三発同時の三段突き。
「
それをスキルで対抗する。
瞬時に彼らの間に三つの火花が走った。
(どうして……どうして対応できてるの!?!?)
チーターと互角以上に渡り合うプレイヤーをは初めて見たクレナータは驚きを隠せない。
視線はだんだんと憧憬の色を帯びて、それに比例して剣戟の速度はより上がっていく。
音は絶え間なく響き始め、チーターの逸らされた一撃が背後の機兵を貫いている。
彼は彼女の保護とチーターの対処を同時に行っているのだ。
(ははは……!なんてバケモノなんだ……!)
それを目の前で見せつけられるニヴェーチェの心に呆れが漂う。
隔絶した実力差。全ての攻撃が手玉に取られている感覚。
それはもう、筆舌に尽くしがたいほどに不快だった。
「油断したな」
その時、5秒間続いた拮抗状態をキリュウが崩した。
甘いスキル発動だった。
適当な、胸に向かって放たれた一撃だった。
「それが命取りだ」
5秒に渡る強者との拮抗に満足したニヴァーチェに対して天罰が下る。
一撃は剣によってくるりと弾かれて胴体はガラ空きになる。
「
そして放たれる32連撃。それを防ぐ術すらなくチーターは倒された。
体は崩れ青い結晶と共に塵になる。
クレナータにとってそれは後光に見えた。
圧倒的な実力でチーターさえも正面から潰すプレイヤースキル。
自分では到底成し得ない偉業を目の前ですんなりと行われた。
溢れるのは憧憬と興味。
自分が出来ないことが出来る。それはとんでもなく羨ましい。
彼女は彼の強さをその身にしたくてたまらない!!!!!!!!!
胸はドキドキ。視線は釘付け。
ただこれは恋と言うよりも、不意に流れ星を見つけた時のソレに近い。
圧倒的な存在の、突然の到来。
人はただ見上げて感嘆するしかない。
「す、すごい…………」
彼女のリアクションなど気にせずにキリュウは彼女の背後にいる機兵を殲滅し始めた。
異常なまでの判断と動き出しの速さ。
この速さが彼女を魅了する。
彼女の得意は剣技の速さ。
通った場所は綺麗に崩され、剣の投擲、拳により打撃。全てを用いて効率的に機兵たちを無双していくその姿はある種の美しさを持っていた。
まさに自身の上位互換。
クレナータは魅せられていた。
目指すべき星はこんなにも輝いているのかと。
3メートルの巨人たちが一人の男を倒す為だけに走り出す。
その景色はまさに壮観。
次第に大きくなる地響きと巨大になっていく影は、思わず身をすくませてしまうほどの圧力があった。
そこに一筋、黒い疾風が飛び出す。
疾風は青い剣筋を伴って次から次へと機兵を破壊する。
「
振り上げられた巨大な右腕が振り下ろされるよりも早く切り落とし、その背後で走っている3人の巨人を破壊する。
すぐさま切り返して列の先頭に戻り周囲にいる5人の機兵を分解する。
この瞬時の出来事で機兵たちはターゲットをキリュウに絞ることになる。
「順に来い。なます斬りだ」
彼に向かって拳四つ、蹴りが五つ迫ってくるがそれらを全て切り裂いた。
ここから2分半。圧倒的な斬撃の後、キリュウは300体の機兵の殲滅を完了した。
「ふぅ……」
キリュウはゆっくりと息を吐いてすっからかんとなった通路を見る。
(さて、相談にあった奴は出て来なかったな)
彼はとある目的でこの遺跡に来ている。それは特定のチーターの討伐。その目標は先程倒したニヴァーチェではない。別にいる目的のチーターがどこにいるのか、その疑問について頭を巡らせていた。
そして第一層の最奥。第二層へと続く扉の前にはクレナータが立っている。
その目は宝を見つけた子供のように輝いていて、彼にとっては正面から見ることができないほどに眩しかった。
「あの……頼みがあるんです。私を、弟子にしてください」
頬を赤らめながらの頼み事にキリュウは拒否をするつもりで口を開こうとする。
ズキン
その言葉が出る前に脳に電流が走った。
本当にそれでいいのか。
こんなことよりも優先するべきことがある。
煮えたぎる復讐を果たすべきだはずだ。
「……どうしたんですか?ぽかんと口を開けちゃって」
彼は誰か組んで行動をするつもりはなかった。チートハンターズとしての活動を例外として動くつもりだった。だがしかし、どうしても。
次の世代のことを意識してしまう。
「……ああ、いいだろう」
結局、キリュウは彼女の願いを受け入れた。
答えと同時に同時に条件をクリアしたことを察知したシステムが第二層に続く扉を開いた。
彼らは二人並んで次の層へと進んでいく。
扉の先は白い光が眩く光っていた。
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