第37話 心置きなく

 まず俺は先手を取った。

 奴の周囲に炎剣を生成して発射する。

 当然、パリィを使って防がれてしまう訳だがそれで攻撃の手を緩めるつもりはない。

 すぐに足元から剣を放つ。


「ははは、まずパリィ完全攻略だ!!」


 奴のパリィのチートには決定的な弱点がある。それは通常攻撃でパリィを行っていることだ。

 大剣のカテゴリの武器は振りが非常に遅くなる。故に密度の高い攻撃に対応が出来ないのだ。アゲサゲのような短剣による乱痴気乱舞ならどんな攻撃もパリィをすることが出来るだろう。

 または圧倒的なPSがあれば一撃で三発の攻撃をパリィするといった芸当ができるだろう。しかし、そんなことは出来ない。奴はチートに寄りかかるチーターだ。その腕などたかが知れている。


「枯座────」


 奴は攻撃を喰らいながら強引にスキルを放とうとするがそうはさせない。

 頭上からブラストマグナムを掃射して妨害する。


「…………」


 奴は地面に叩き伏せられて抵抗することが出来ていない。


「立って見ろよ。ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラ!!!!!!!!」


 接近戦を挑むことが間違っていた。

 俺が行うべきは中距離での圧倒。

 相手の攻撃手段は超豊富。

 対してこちらの手段は強化されているとはいえ貧弱だ。

 また魔法の相殺はあまり適した方法とは言えない。奴のMPは恐らく無限だ。物量でも惜し負けてしまうだろう。

 より正確な手段を取らなければならない。

 正解の未来を手繰り寄せなければならない。





 そんなことできるのか?





 できる。

 何故なら、俺の方が強いから。


枯座鎚かれくらつい残響麒麟ざんきょうきりん三ツ首トライデント


 奴の体力は残り6割。転がってブラストマグナムの雨から抜け出して三頭の竜を呼び寄せる。


「何十頭でも呼び出してもいいよ。全部倒せるから」


「神霊回路 篆刻」


 余裕を見せながらも神話魔法の詠唱を始めると左手に黒い文様が走る。。

 俺の目的は奴に余裕を与えないこと。

 詠唱はするだけで圧がかかる便利な代物だ。

 詠唱を聞いた奴はさらに神話魔法を展開し始める。


「月皇布武 王道軌跡+枯座鎚かれくらつい残響麒麟ざんきょうきりん


 神速の雷撃が俺めがけて飛んできた。

 しかし予想内の行動であることと十分な距離をとっていた俺は軽々と避けていく。


「疑似業火導火線 点火」


 さらに詠唱を続けることで奴の動きはどんどん単調になってった。


「くっ、月光布武!!!」


「ははは、本当に弱いな!!!!」


 俺は奴の攻撃を回避しながらブラストマグナムを当てていく。

 竜たちを避けながら魔法を当てる技術は前のラウンドで習得した。最早奴は俺の敵ではない。


「どうして避けられているのかって顔してるな!!!」


 体力の減る様子をにこやかに観察しながら煽るために口を開く。


「そもそも、さっきの攻撃が当たったのは距離が近かったからだよ」


 奴はド下手だ。

 ただ神話魔法を振り回しているだけの雑魚だ。

 狙いは手に取りように分かるし感情を荒ぶらせれば、思考を単純にできる。


「もう、その作戦は通用しない」


「月光布武!月光布武!!月光布武!!!」


 奴は無駄なあがきをする度に体力が減っている。


「弱い。もっとよく狙って!!目ぇ付いてんのか!!!」


 電撃をひらりと躱していくと敵の体力はいつの間にか2割ほどになっていた。


「………枯座鎚かれくらつい残響麒麟ざんきょうきりん……樹海」


「なんで最初から思いつかなかったんだ。それ」


 痺れを切らした奴は何とも雑な攻撃を発動した。

 奴の背後には二十数匹の竜が漂っている。全て神話魔法の竜だ。

 なんとも派手で一見絶望的な景色だが俺にとっては脅威でも何でもない。


「右前腕を砲身に指定 煌塵こうじん


 詠唱は完了した。

 俺の左腕は巨大な銃へと変化する。


「たかが神話魔法一発で何が出来るというのだ!」


 余裕のなくなったチート販売業者は声を荒げながら竜を発射した。


(あぁなんて────)


 目の前には雷の壁。

 まともに食らえばどんなビルドをしていても倒れてしまうであろう。

 だがしかし、この攻撃は届かない。


「お前に勝てる」


(無様なんだろう)


 俺はすぐに奴に標準を向けて煌塵こうじんを発射した。

 左腕を捧げた一撃は瞬時に目の前の壁を抉り飛ばす。

 数ある神話魔法の中でも最大の威力を持つ一撃は数匹の竜を消し飛ばして奴と俺との間に穴を開けた。


「あばよ」





 そしてすぐに穴めがけてヒートマグナムを放つ。

 こうして奴の体力はゼロになった。





 そして残るはラウンド3。

 これに勝利すればチート販売業者に勝ったことになる。それはチーター撲滅への大きな一歩になる。

 燕尾服のチーターは明らかに動揺していて無力感からか膝をついてうなだれていた。


(そのまま戦意喪失してくれると助かるんだが……)


「……失礼。先ほどは取り乱しました」


 すると勝手に立ち上がり服を正す。どうやらまだ立ち上がる元気はあるらしい。

 俺は話半分に聞きながら、次に試すべき策を考えスキルを組み直している。


「私は後悔しています。あまりに商売人として不誠実な行動をしてしまった」


(ん……?)


 話半分で聞いていても聞き逃せない言葉が耳に入った。

 反省の色だ。


(改心?今更?なんかやりづらいな)


 チートを使っていることを後悔し始めるチーターは珍しい。そしてそんな相手をボコボコにできるかと言うとすこし心が引けてしまう、かもしれない。


「もっと、商材について知るべきだった」


(おっと~~~~~~??)


 事態は一変俺の妄想と心配は吹き飛ばされた。奴はどこまで行ってもチート販売業者なのだ。

 こうしてカウントダウンがゼロになる。

 始まる最終戦。


「この戦いでチートへの理解を深めさせていただきます」


「最高だな!!!倒すのに罪悪感がないってのは!!!!」

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