第18話 到来

「厄介だな」


 黒は発現した青い稲光にどうしても思考が割かれてしまう。


雷召らいしょう


 そして彼女は言葉を紡ぐ。

 神話魔法は発動に詠唱を必要とする。

 しかし、それはデメリットばかりではない。確固たるメリットも存在する。



 それは存在感。



 神話魔法はそのどれもが、『ある程度のレベル差』さえもひっくり返せるような異次元の性能を持っている。そのため『神話魔法がこれから発動する』ということ自体が圧となる。

 彼女の告げた魔法もその例に漏れず、黒にとって確固たるプレッシャーとなっていた。


「またまた隙あり」


 一瞬、割かれた思考の隙を、ホリーハックは見逃さなかった。

 飛び上がって上空から黒へと襲い掛かり、弓で防御されるのを確認したら蛇で刃を滑らせて脇腹を刺したのだ。

 防御を含めて二撃。



 これにより浅葱色の騎士は完成へ至る。



「おいおい。焦りすぎだ」


 しかし、それは奴の術中の内だった。

 黒は脇腹に刺さった刃を掴んでいたのだ。


(クソ、会心は出なかったか)


「ファングショット」


 彼女が悔やんでいると、黒は弓を地面に突き刺し右手で弓を引いて一撃を放つ。

 回避する間もなく放たれた一矢は彼女に赤い傷を残す。

 だが、その程度で彼女は止まらない。


「焦ってないよ。そういう戦法だから」


 ホリーハックは黒の足を踏みつけて、片手で攻撃を仕掛けた。


「螺旋穿牙」


 確定会心による不可避の一撃。

 痛恨の一撃は黒の体力を残り4.5割にした。


「ははははははは!!!!俺が一枚食わされたってわけか!!!!」


 黒は高らかに笑いながら吹き飛ばされる。

 ホリーハックはジワリ、と減った体力を見ながら追撃を決意して矢のように跳ねた。

 着弾点は黒の着地場所。


迅雷・・


 さらに詠唱は進む。

 ここで取り逃がしたところで、神話魔法が彼を滅ぼす。

 着地狩りの一撃は防がれたものの、間髪入れない連撃で黒は後ろへ後ろへと追いつめられていく。

 確実に、チーターは負けへと歩みを進めていた。


「なるほど、ホリーハック、調子いいな!!だがな、このままじゃ終わらない。そう、終われない。だって予感はしていただろ。俺がまだ本気を出していないって」


 追いつめられる中、一足一刀の間合いで黒は矢をつがえた。

 怪しい。

 ホリーハックの直感はそう言っていた。

 だからこそ最短最速の一撃で行動を阻止しようと槍を向ける。


「螺旋────」


 痛恨必死の一撃を放とうとしたその時、彼女の右肩は貫かれていた。


「喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ!!!!!!!!」


 一撃を受けた彼女はすぐに防御へ切り替えて、迫りくる牙の追撃へと対処する。


(流石にまずい!)


 タイミングを伺っていたオータムはこの状況は絶対のピンチであると察知して、補助魔法をホリーハックにかけた。


「エクセル、アームド!!」


 詠唱中であっても他の魔法を使用できる仕様を用いて、速度と防御力を強化する。

 瞬時に黒と距離を取り、槍を回すことで飛んでくる矢を防ごうとする。

 白い牙がマシンガンのような速度で放たれた。

 それはオータムへの攻撃よりも圧縮された速度で、最早それはヒトが反応で斬ることのできる速度ではなく、無慈悲に標的を貫いた。

 彼女は適当に槍で防御することで何度か攻撃を弾くことに成功したが、それでもチートによる連撃は防ぎきれなかった。


「本気じゃなくてズルでしょ。チーター」


 体力は残り1割。


 突然、黒はニヤつきながら攻撃の手を止めた。

 次のアクションを起こせば殺される。その予感があった彼女はただ槍を構えてその場で立ち止まった。


(攻め手が見つからないな)


 一手しか打てないからこそ、次の一手は確実に効果があるものにしなければならない。

 先ほどまでの優勢はチートによって覆された。

 慎重に動かなければ無為に体力は減り、倒されてしまう。


「ははっ、一本取られたな。だが代わりに勝負の一本は貰うぞ」


 チートによる攻撃を受けたホリーハック。その光景を見届けたオータム。

 彼女たちは黒の使うチートを看破した。

 異次元の弾速。攻撃速度。これらが仕様を逸している。


(使ってるチートは弾速強化とクールタイム短縮って感じかな?)


「イースのかぎ爪」


『黒のチートは弾速強化と攻撃速度増加』


 詠唱をしながら一つの考察を立てて、チャットを打っていると、黒は急にあらぬ方向へ3発矢を放った。


「……最悪」


 ホリーハックが悪口を溢す。

 現れたのは呪いの手。

 それを見た瞬間、彼女たちは何が来たかを察知した。


 すぐに動き出したのはオータムだった。


 『闇が合流してくる』


 それを予期した彼女は、より一層広い視点で戦場を見るために体力を犠牲にして飛び退いた。


「カース・インパクト」


 しかし、ステップで移動する距離でも避けられない程大きな呪いの奔流が迫って来ていた。

 身を焦がす呪いの一撃はすぐさまオータムの体力は残り2割になってしまった。

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