星降る図書館の番人 ~鍵を巡る旅は、恋の始まり~

ましろゆきな

第1話 星の書が沈黙する時

 ユニティ王国の中央にそびえる「星降る図書館」は、その名の通り、夜になると天井いっぱいに星々が瞬く、魔法に満ちた場所だった。


 私はこの図書館の若き番人、エステラ・フォークナー。

 膨大な知識が眠るこの場所で、本たちを守り、静かに暮らしていた。


 私の仕事は、尋ねられた本を速やかに見つけ出し、貸し出すこと。

 しかし、ここには「貸し出しカード」のような便利なものはない。

 頼れるのは、ただ一つの相棒だけ。


「お願い、今日の分だよ」


 私が魔力を込めて祈ると、淡い光が手のひらから生まれ、小さな「鷹」の姿を取る。

 この鷹は、私の魔力と知識が具現化したものだ。


「アルバス殿が、植物学書を借りたがっているわ」


 私の声を聞き、鷹は「キィ!」と短く鳴くと、巨大な本棚の迷路へと飛び立っていく。

 鷹の目が探すのは、私が頭に思い描いた一冊。

 やがて、埃をかぶった分厚い本を掴み、私の元へ戻ってくる。


 これが、私の日常だった。

 星々の光が降り注ぐ中、本を片手に優雅に舞う鷹。

 この光景は、私にとって何よりも愛おしい時間だった。


 その夜も、いつものように鷹が本棚の隙間を滑空していた。その時だった。


「キィィィィィィィィィィィ!」


 けたたましい悲鳴が図書館中に響き渡る。

 鷹は、本の代わりに、手からこぼれ落ちた星の光の塊を掴んでいた。


 何かがおかしい。


 私は急いで図書館の中央へと向かう。

 そこには、この図書館の核であり、王国の歴史と運命を記す「星の書」が安置されている。

 普段はまばゆい星の光を放っているはずのその書物が、今は鈍い鉛色に沈黙していた。


 本から星の光が抜け落ち、文字が崩れ、ページが白紙になっていく。


「そんな……」


 呆然と立ち尽くす私の元へ、図書館の長が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「エステラ! 大変だ! 星の書が……魔力を失っている!」


 星の書が沈黙すれば、王国の歴史は消え去り、魔法の力は弱まり、やがては国そのものが滅びてしまう。


 図書館長は、震える声で告げた。


「この書物の魔力を取り戻すには、星の書に記された『運命の鍵』を探すしかない……だが、その鍵は、選ばれし者たちにしか扱えない……」


 その瞬間、鉛色の「星の書」から、たった一筋の光が私の胸元へと飛び込んできた。

 それは、運命の鍵が眠る場所を示す、淡い星の輝きだった。


 私の穏やかな日常は、終わりを告げた。


「運命の鍵」を巡る、星と魔法の物語が、今、始まる。

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