第36話:敵の親玉


「え? まい先輩、また休みですか?」


 ヒーローショーに出た次の日から、まい先輩は二日連続で学校を休んだ。

 どうやら寮ではなく、実家に帰っているらしい。

 私は先輩の言葉を思い出す。


 もしかして、先輩が言っていた『敵の親玉』って……!


「あぁ。連絡がつかないと学園長が言っていたな」

「…………」


 連絡がつかないって大丈夫なの?!

 ……嫌な予感がする。


 するとその時、生徒会室の扉が開き──芥川先輩が深刻そうな表情を張り付けたまま、入ってきた。


「要先輩? どうしたんですか?」

「……。──まいが、青空学園を中退すると、今……連絡があったみたいだ」


 ──えっ?!

 その場にいた全員が唖然とする。


「そ、そんな急に……?!」


 未来空先輩がそっと立ち上がり、生徒会室を出ようとする。

 私は先輩を呼び止めた。


「未来空先輩、どこに……」

「分かってんだろうが。まいに会いに行く」

「っ! わ、私も、連れて行ってください! 私も、先輩と話さないと気が済みません!! 日曜日までまい先輩と一緒でしたし!」


 未来空先輩は私をしばらく見ると、「ついてこい」と一言だけ。


「ちょっと待った」


 未来空先輩と二人で部屋を出ようとすると、今度は私が止められる。

 止めたのは、要先輩だ。


「……僕も行く。生徒会長として、まいを放っておけないからね」

「要がそう言うなら、俺も行く義務がありますね。副会長ですから」


 要先輩の言葉に篠原先輩も賛同してくれる。

 そんな中、朔が私に質問を投げかける。


「茉莉、お前何か心当たりあんのか?」

「え?」 

「まいさんがやめるって聞いた時、そういう顔をしていた。何か知ってる顔をな」


 先輩達が一斉に私を見る。あまりにも鋭すぎる朔の質問に私は別れ際のまい先輩の様子を思い出す。


「実は日曜日に別れ際、先輩がこんなことを言っていたんです。先輩は今、先輩を苦しめている敵の親玉とずっと戦ってるって。連敗続きだったけど、また戦ってくるって! 私、その時に先輩が何を言っているのかよくわからなかったんですが……」

「そうか。なら、原因は分かった」


 そう言い放ったのはまい先輩の幼馴染である未来空先輩だ。


「どういうことだい? 輝」

「……あいつの家庭、シングルマザーなんですよ。それで母親が異常な『人形愛好家』なんです」


 ──人形愛好家。

 私はその言葉を聞いて、なんとなく察してしまう。


 なんでまい先輩がいつも金髪美少女の姿でいるのか。

 なんで先輩が、自分の本当の姿をコンプレックスなのか。


「まいは元々ガタイがよかったんだが……母親はそんなまいの容姿を気に入っていなかった。だから、《変化》の能力が開花した時、あいつの母親はまいを人形のように綺麗な姿である事を強いてきた。その結果が今のまいだ。あいつはあの女の姿じゃねぇと落ち着かないようになったんだ」

「……そ、そんな……」


 本当の姿のまい先輩を素敵だと言った時のまい先輩の泣きそうな顔。その意味がやっと理解できた。

 やっぱり、金髪美少女のまい先輩はまい先輩自身の“理想の姿”じゃなかった。まい先輩のお母さんの理想だったんだ。

 あの様子じゃ、まい先輩の本当の姿を否定され続けてきたんだろうか。


 ──ひどい!

 早く……早く、まい先輩に会いに行かないと……。


 ──きっと、今、まい先輩は絶望の淵に追い詰められているだろうから。

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