第31話:お墓参り


 ──日曜日。


 朔はテストで赤点をとってしまったというので、この日私は一人でこっそり両親の墓参りに行った。先日の荒川さんの言葉が気になって、不安になってしまって、どうしても両親に会いたくなった。自ら一人になるという危険を冒してしまっているのは分かっているけれど、どうしても……。それに、墓参りに生徒会の先輩達を頼るわけにもいかない。少し話したら、すぐ帰ればいい。

 そんなことを思ってしまった。


 久しぶりの両親のお墓を一人ぼんやりと見つめる。


「……お父さん、お母さん、私、能力者だったんだよ」


 高校生になってからタイミングがなくてここに一度も来れてなかったので、今まで起こったことをお父さんとお母さんに話していると、後ろから名前を呼ばれた。


「──桜さん?」

「芥川先輩!?」

「なんでここに!? もしかして一人で来たの!? 君は狙われているんだぞ!? もっと自覚を持ってくれ!」

「あ……す、すみません……!!」


 正論だ。すぐに私は頭を下げる。

 すると芥川先輩が私の背後を見て──。


「ここは?」

「あ……私の両親のお墓です」

「……そうか。それなら、次ここに来るとき、朔君に何か用事がある時は必ず僕に言って。僕が一緒に行くよ」

「そんな申し訳ないです! というか、先輩はどうしてこんな所に?」

「ここに母の墓があってね。君と一緒だ」

「そ、そうだったんですね」

「うん。だから君がご両親に会いたくなったら、僕も付き合う。遠慮しないで」

「……ありがとう、ございます!」


 芥川先輩も、お母さんがいないんだ。

 しばらく、沈黙。その沈黙を破ってくれたのは芥川先輩だった。


「桜さんは今まで一人で暮らしてたの?」

「いえ。叔父さんに引き取られて一緒に暮らしていました。叔父さんは警察官で忙しいので、ほとんど一人暮らしみたいなものでしたけど」

「そうか。寂しかったね」


 芥川先輩は両親の墓を見つめながら、そうポツリと言う。

 その時の優しい声色に一瞬だけ、涙が溢れそうになった。

 もしかしたら芥川先輩も、寂しい思いをしたのかな、なんて。


「そうですね。突然二人ともいなくなったので。両親は暴走した能力に巻き込まれてしまったんです。SSSって薬のせ……」


 ──ん? ちょっと待とう! SSSのことって確か内緒だったよね!? 私の馬鹿ッ! 

 私は慌てて自分の口を塞ぐ。恐る恐る芥川先輩の顔を見てみると……


「……SSSを、知ってるのか?」


 芥川先輩が、顔が真っ青にさせて固まっていた。

 私は目を見開く。


「それはこっちの台詞です。先輩こそ、どうしてSSSのこと……」

「君のご両親は、SSSによって暴走した能力に巻き込まれた。そうだね?」

「ッ!」


 先輩は私の言葉を無視して、私の両肩を掴む。その力が強くて、恐怖を覚えた。

 芥川先輩の顔も怖い。私は体を震わせて、「先輩、」と縋るように呼んだ。またあの、優しい先輩に戻ってほしかったのだ。

 その想いは先輩に伝わったらしい。私の両肩が解放され、先輩が私から目を逸らした。


「……ごめん」


 今にも空気に溶けてしまいそうなほど小さい声。

 芥川先輩の顔は今にも──泣きそうだった。どうして、と疑問が頭に浮かぶ。


「芥川先輩?」

「……。いや、なんでもない。急にごめんね。気にしないで。……でも、桜さん。何か、困ったことがあれば全部僕に言って。必ず、力になる」


 先輩の突然の力強い言葉に驚く。先ほどの弱弱しい先輩とは違い、今の先輩の瞳には強引さを感じる強い輝きが見えた。なんだか、必死にも見える。


「ど、どうしたんですか突然……」

「いいから。なんでもいいから僕を頼って。なんでもするから」

「は、はい……。ありがとうございます」


 私はとりあえず頷くことしかできない。

 それから私は先輩と一緒に青空学園へ帰る。帰った後にもう一度考えてみたが、一連の先輩の様子にはやっぱりどこか違和感を覚えた。

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