第14話:似たような境遇

 生徒会に入ることになってから一か月が経った。それくらい経ってしまえば、高校生活も慣れてくる。青空学園での生活はまさに平和そのもの。本当に私を狙う悪い人なんているのか、と疑うレベルだ。まぁ、平和であることに越したことはないのだけど。


 そんな中、私は未だに未来空先輩と会話すらしていない。むしろ初対面時以来、先輩を一回も見たことすらないのだ。未来空先輩はなかなか生徒会の活動に参加しないらしい。まい先輩曰く、彼は極度の人見知りだという。確かに初め生徒会室で会った時は裸足だったし、なんだか近寄りがたかったけれど。

 ……いつか、未来空先輩と仲良くなれる日が来るのだろうか。


「──え? 輝と仲良くなるにはどうすればいいかって?」

「ははは。桜さんって度胸あるんだね」


 まい先輩、芥川先輩とお茶している時に未来空先輩の事を話すと、そう返された。

 ちなみにまい先輩はいつもの白髪美少女の姿のままだ。まい先輩はまだ本当の自分の姿を見せる状態ではないらしい。そこは気長に待っていようと思う。高校生活はまだまだ長いのだし。


「茉莉。流石に輝はやめときなって。泣かされるよ?」

「でも、未来空先輩も生徒会メンバーですし……。というか、よく未来空先輩、生徒会に入る事を承諾しましたね」

「あいつは僕と学園長が無理やり入れたもんだよ。なんだかんだいって放っておけないんだよね、あいつ。生徒会に入れば少しは変わるかと思ったんだけどそうでもなかったや」

「そういえば、生徒会って普通はどうやって入るんでしょうか? 立候補?」

「いや、学園長からのスカウトだよ。俺も結城もまいも未来空も学園長の人選」

「へぇ。ちなみに先輩方は全員能力者ですよね?」

「そう。僕達の能力はいずれ分かるよ」


 まぁ、実はちょっぴり気になるけれど。でも、まい先輩の時みたいにポロッとわかることもあるだろうし。先輩達から教えてもらうまで何も聞かないようにしよう。


「茉莉、輝の能力見たら絶対怖がると思うな」

「そんな怖い能力なんですか? 巨大化するとか?」

「ううん。もっとエグイ」

「えぐ……?」

「まい。そういうことは言うな」

「はーい。でも今の輝の性格にぴったりの能力かな。なんであんなに捻くれちゃったんだか。昔は普通にいいやつだったんだけど」


 まい先輩はため息を吐いて、淹れたてのホットミルクの水面をじっと見つめていた。


「昔はあんな……近寄りがたいような感じじゃなかったんですか?」

「そう。僕、小さい頃いじめられててさ。輝はそんな僕を、いつも助けてくれたんだよ。それこそ正義のヒーローみたいに」

「未来空先輩が正義のヒーローって、ちょっと想像がつかないです」

「だよね。でも、あいつ中学三年生になるまで能力開花しなかったんだ。だから中学校で無能力者って散々いじめられてるんだよね」


 いじめ。その単語に私はピクリと反応する。


「学校は勿論だけどそれよりも酷いのは親だよ。あいつの兄さん結構有能な能力者で、親に兄弟で散々比べられてたみたい。体中痣とかすごかったし」

「そ、それって!!!!」

「だから、一番茉莉の境遇に近いのはあいつかも。茉莉も色々苦労してきたんでしょ?」

「…………。いや、私は……両親はいないけど、育ての親に恵まれましたし、朔がいつも守ってくれたから……幸せな方だと思います。」

「そっか。強いね。でも、こんな能力で優劣を決めるって風潮、本当に意味わかんない。輝を変えたのはそんな歪んだ考えを持った人間達だよ。……僕は、一生そいつらを許す気はない」


 まい先輩の眉間がきつく寄せられた。この間、痴漢男を止めてくれた時のような表情だった。しかしすぐにいつもの陽気な先輩に表情をコロッと変える。


「あーあ、辛気臭い話になっちゃったー! 輝のせいだ! 今日新発売のアイス食べよ! 茉莉と要さんの分もあるよ!」

「あ、ありがとうございます!」


 まい先輩からもらったアイスを食べながら、私は未来空先輩の事を考えた。


 未来空先輩、親やクラスメイトから酷い扱いを受けてきたんだ。私もそれなりに酷かったけど、育ての親や朔がいてくれたから私のままでいれた。

 ……やっぱり私、未来空先輩と、仲良くなりたいな。

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