第6話 ネコミミ幼馴染(姉)は心配らしい
五守家の朝は早い。親父と母さんは共働きで毎朝五時代には家を出る。だから平日の朝、家には俺一人のはずなんだけど。
「はい、じぃちゃん。今日の朝は和食メインだよー」
隣に住む、ネコミミお姉さんが俺の家にいても違和感はない。
3LDKのマンション。まだ時刻は六時代だってのに、リビングのダイニングテーブルには豪勢な和食が並ぶ。
「いつもありがとな、音弧」
「いいの、いいの。むしろこっちが勝手にお邪魔して、料理させてもらってありがとうって感じだしー」
音弧の両親と妹の美々は朝にめっぽう弱い。朝ごはんは抜く派らしく、作っても食べてくれないみたい。だけど音弧は真逆。朝にめっぽう強く、朝ごはんをしっかり食べる。
それだったら、朝の早いウチの両親に料理を作ってあげたいってことで、音弧がたまに料理を作りに来てくれる。流石に毎日はお互いにしんどいから、音弧の気が向いた時というか、音弧が早起きをしないといけない時に来る。
しっかりと手を合わせて音弧に感謝を送り「いただきます」をしてから食事を開始。音弧も、「めしあがれー」と言いながら、「いただきまーす」と共に食事を始めた。
「今日は、なんかあんの?」
イベントの時に朝ご飯を作りに来てくれるイメージだから、今日もなにかあるのだろう。
「朝の挨拶運動って名の選挙活動があるよー」
「あーね。生徒会選挙の」
そういや音弧って生徒会長に立候補してたっけか。
「入学してまだ日も浅いってのに、速攻で生徒会選挙なんてやるんだな」
「まぁ一年生からすると、まだ学校のこととか全然わかんないよねー。クラスのことだってまだだろうし」
でも、と音弧は真っすぐな目をして言ってのける。
「だからこそ、私が生徒会長になってみんなが楽しめる学校にしたいんだよね」
言葉としてはあっさりとしているが、生えたネコミミから彼女の真っすぐで芯のある志が伺える。
「もう既に確保済みの票の奴に語っても意味ないぞー」
「にゃはは。そうだった。悪徳政治家だもんね、私」
こんな悪徳政治家にトップを任せたら、楽しい学校生活になりそうだな。
「それで、無条件でもう一票もらえる奴は、やっぱりまだ寝てるのか?」
遠回しでわっかりにくい言い方をしたのに、音弧はすぐに誰のことか気が付いてくれる。
「美々ちゃんは昨日も夜遅くまで推し活に励んでいたからねぇ」
「推し活ねぇ」
ずずずーと味噌汁を飲む。音弧の味噌汁がおいし過ぎて、これの推しになっちまうよ。
「そういや、美々が推し活してるのはなんとなく知ってたけど、なにを推してるのかまでは教えてくれたことないな。音弧は聞いてる?」
「にゃはー……」
ジーっとこちらを見てくるんだが。
「……かっこいい男の子とか?」
「美々ってアイドル推してんのか。意外だな」
「アイドルというか、国民的というか、庶民的というか」
「へぇ。まぁ、今やアイドルとファンの距離って近いもんな。最近のアイドルも近所のあんちゃん感を出してる人が人気っていうか、なんというか」
「まぁ……近所のあんちゃん感というか、近所のあんちゃんそのものというか……」
「でもさ、あいつの推し活の影響がたまーに俺の方にやって来るんだよね」
「そうなの?」
「ああ。美々のやつ、俺の中二病の時のことをおちょくってんのか、たまに『仁様』とか、『神』とか言ってくんだよ」
「あー、にゃははー」
なんか音弧のやつが含みのある笑い方をしてくるんだが。あいつ、俺がいない時にもいじってんのかな。
「ま、美々にいじられるのは全然良いんだけど、たまにクリティカルで大ダメージを与えて俺の精神を容赦なくえぐってくるよね。昨日も夜、ベッドに横になったら悶え死んだわ」
「果たしてどっちの方が悶え死んだのやら」
「ん?」
「んにゃ。にゃんでもないよ―」
言いながら食べ終えた食器をシンクの方へ持って行ってくれる。
「じゃ、私は行くね」
まだ時刻は七時にもなっていない時間帯。
「もう行くのか」
「もう少し遅くても良いんだけど、色々と準備があるし」
言いながら玄関に向かうので、俺も自然と玄関まで彼女をお見送り。
「あ、みぃちゃんは起こさなくて良いからね」
「だな。もう高校生なんだし、自力で起きることを覚えてもらわないと」
ん? あれ、そういえば昨日は俺より先に教室にいたっけ。
「でも、昨日は俺より早く学校に行ってたぞ」
「昨日はあまりにも起きないからお姉ちゃん直々に起こしてあげたの」
「なるほどな」
結局、甘ちゃんのお姉ちゃんだねぇ、音弧も。
「今日はじぃちゃんもお姉ちゃんも起こさないって釘をさしてあるから」
「それで危機感を覚えてくれたら良いがな」
「うまくいけば良いんだけどねぇ」
ちょっと厳しくしすぎたと言わんばかりの音弧は、ネコミミを垂らして心配そうな顔をしている。ま、不安は不安だろうな。あいつ、まじで起きないし。
「音弧は音弧で用事があるんだし、しゃーないだろ」
「……ん。そうだね」
不安げに首を無理やり縦に振って玄関を開けた。
「行ってきます」
「あい。行ってらっしゃい」
音弧を見送ると、時刻は七時を過ぎた辺り。まだまだ学校に行くには早すぎる時間だが、俺も制服に着替えることにした。
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