隣の幼馴染はデレるとネコミミが生えるからわかりやすい

第1話 ネコミミ幼馴染はわかりやすい

　完城美々（かんじょうみみ）はわかりやすい。

　俺、五守仁（ごもりじん）と同じ高校、同じクラスで隣の席。おまけに家も隣同士の幼馴染。

　そんな俺の幼馴染様は、高校に入学してまだ数日だってのに、制服の上からパーカーなんて着ている。おまけにフードなんて被ってらっしゃいます。ま、ウチの学校は寛容だからこの程度じゃなにも言われないみたいだね。

　しかし、頭隠して尻隠さず。上半身はガッチリと隠しているが、下半身部分はやけに装甲が薄い。ミニスカから伸びるスラッとした脚はモデルを思わせるかのように白くて綺麗である。

「おはよ、美々」

「……ぉはよ」

　こりゃまた眠たそうな返事なこって。こいつ、朝はめっぽう弱いもんな。

　フードを被って顔がはっきりとは見えないが、その中の顔が眠そうな顔をしていることなんざ、幼馴染の俺にはバレてんだぞ。とか口に出したら痛い奴だから、絶対に口にしないけど。

　入学早々、周りからはクールだとかなんだ言われている美々だけど、こいつはクールぶってるただの寝坊助ちゃんだ。そんな寝坊助ちゃんの目を覚ましてやるか。

「美々。これ、昨日駅前で見つけたんだけどいる？」

　鞄からガチャガチャのカプセルを取り出して彼女の席に置いてやる。すると、ネコジャラシをもらったネコみたいに反応してるよ、この子。カプセルをコロコロと転がして遊んでる。まじもんのネコみたいだな。

　警戒してたのか、それとも飽きたのか、ようやくとカプセルの中身を開けてみせた。

「──！？」

　中身はネコのヌードルストッパー。カップ麺のふたを押さえるあれね。愛くるしいネコがちょこんと座ってこちらを見つめている。

　この商品はその完成度から大人気商品らしい。種類は全四種。売り切れが続出しているとかなんとかネットで見たけど、地元の駅には結構在庫があったんだよな。

「それ、美々が前にどこにもないって言ってたやつだよな。昨日、駅で見つけたんだ。やるよ」

　どうだ美々。これでバッチリ目が覚めたってもんだろ。お前の好きなネコで、目覚めのネコパンチってな。──って、なんかやたらとぷるぷるし始めたぞ。大丈夫か？　ちょっぴり刺激が強すぎちゃった？

　心配していると、フードがふわっとはだけていく。

　ミディアムヘアの綺麗な髪が露出し、クールな声が飛んでくる。

「別に、こんなの欲しくないけど」

　フードの中身はネコみたいに愛くるしく整った顔立ちの女の子。そんな愛くるしい美少女は、言葉とは裏腹に顔を真っ赤に染めていらっしゃる。

　そんな彼女の頭からは《ネコミミ》が生えていた。

　ピーンと天井にアンテナでも張っているかのように真っ直ぐと立派なネコミミ。まごうことなきネコミミだ。

「そっか。余計なお世話だったな」

　そう言ってネコのヌードルストッパーを回収しようと手を伸ばすが、美々は慌ててそれを阻止。

「しょうがない。もらってあげるよ」

「いや、いらないなら別に……」

「勘違いしないでね。別に仁が私との会話を覚えていてくれたのがめっちゃ嬉しいわけじゃないから」

　ネコミミをピョコピョコさせながら言われても、嬉しいって言っているのが丸わかりだ。そりゃ、誰だって会話を覚えてくれていたら嬉しいよな。

「これを大切にしようとか思ってないから。そこら辺に捨てるのが勿体無いからもらってあげる」

　さっきからクールな声をぶっ放しているが、美々は宝物でも扱うような顔付きで、ふにぁっとしてやがる。依然としてネコミミはピョコついてるな。

　美々はanimal emotions（アニマル　エモーションズ）という病を持った女の子だ。感情が昂ったりすると、動物の一部分が表れてしまう。

　美々の場合はネコミミだね。他にもイヌミミだったり、ウサギミミだったりもあるらしい。翼が生えたり、髪の毛がヘビになったりとかもあるみたいだな。病と言っても日常生活になんの支障もないし、普通の人となんら変わりはない。

　しかしながら、本人的にはやっぱり恥ずかしいみたい。だからいつもフードでネコミミを隠している。ま、隠しきれていないところが美々らしいが。

「わかりやすい奴なこって」

「なに？」

「んにゃ。なにも」

「そ」

　美々の奴、大切にしないとか言っときながら嬉しそうに、ニコニコとネコのヌードルストッパーを眺めている。

　完城美々はわかりやすい。

　そして、俺もわかりやすい人間だ。

　この幼馴染様の喜んでいる姿を見るのが好きなのだから。