第7話 必中技ひとつは持っとけ
かれこれ5分以上階段を降りていた。
下り階段なだけマシだ。
「倉庫からそりとか持ってくればよかったかな……」
「流石にコンクリの階段をソリで降りる奴はいねぇよ」
「これ上りだったら面倒だったね」
「そうだな。だが帰りは上りだ」
「……もう帰りは天井突き破っていかない?」
「天を突くドリルがあればそれでよかったけどな」
「……なにそれ?」
「世代じゃなかったか」
「蒼馬、わかる?」
「当時は俺多分2か3歳だな。ま、知ってるけど。最近は知らない人も多そう」
「マジかよ……俺の青春が……」
「あ、見て。着いたみたい」
階段の先には清潔感のある白い機械的な扉があった。
「うん。この感じはいつもの研究所と同じだね」
「お前の世界の怪物工場どこもこんな感じなの?」
「うん。施設の本来の目的は魔力を持たない人間に人工的に魔力を与える実験で、エヴォクションはあくまでその副産物に過ぎないから」
「あれ主目的じゃなかったんだ……じゃあその副産物が不本意に暴走するとかなのか?」
「いや、次の実験台を拉致するために意図的に逃してる」
「最悪じゃん」
「だから、私たち魔法少女はこういう施設を見つけるたびに壊しに行ってるの」
「なるほど」
「多分中には護衛用のエヴォクションも数体いるから、気をつけていくよ」
「わかった」
「了解」
それぞれ武器を構え、愛鈴は変身を終える。
この銃、装弾数は5発、さっき使ったからあとは4発、予備は無し。
結構軽いが本物の銃を使ったのはさっきが初めてだ。
サバゲーは数えられる程度にはやった事があるが、エイム力に自信はない。
「それじゃあ、321で行くぞ。さん……に……いち……」
柊命が扉を蹴破り、勢いよく中に入っていった!
そして、俺と愛鈴も続いていく!
「誰ですかあなた達!」
部屋の中には5人ほどの白衣を着た男女がいた。
そして、部屋の中も白い清潔感がある壁と床だ。
奥側には扉がひとつ、左側には何かの液に満たされているガラス製の筒が……正式名称は知らないけどパニックもの作品で怪物が捕えられてる絶対に壊れない檻というフラグを立てるだけの存在のようなものだろう。
で、その中にはエヴォクションらしき存在が入っている。
「今すぐエヴォクションを放出します!」
一人が大きな機械のボタンを押すと、謎の液に浸されたガラスの筒の中の怪物が目を開き、筒が開かれ排出される。
その数2体。
「あー、小規模の施設だったんだ」
「片付けるぞ、蒼馬、愛鈴」
その呼びかけと共に、柊命は部屋奥側の怪物へと一気に駆け寄り、その巨大な剣を振り下ろす。
が、怪物はその筋肉の詰まった腕で受け止める。
怪物は全長2.5mの人型で、背中から羽のように4本の腕が生えており、本来生えているはずの場所には腕が存在しない。
一つの腕で武器を抑え、他の腕で攻撃を仕掛けようとする。
「よそ見してる暇はないよ!」
ふと目の前を見ると、そこには4本足で毛は一切生えておらず充血した目をしている獣が身構えている。
「”アムリュジス”!」
ピンクの光線が放たれる。
しかし、その4本足の軽やかな動きによって容易く避けられてしまう。
あの攻撃、火力は確かなのだが攻撃範囲が狭いな。
「くらえ!」
彼女はめげずにむやみやたらに打ち続ける。
しかし、それらは全てダンスのように軽やかに避けられてしまう。
俺も銃を一発撃ってみるが、それも簡単に避けられてしまった。
「蒼馬! 私が誘導するから狙って!」
「俺が誘導するの!?」
そう言い、彼女は再び閃光を乱射する。
見たところあの魔法の方が火力ありそうだよ!
怪物が避けていく中、ジャンプして避けようとし、何度か体の全ての部位が浮いている状態が生まれている。
「そういう事か!」
怪物がジャンプし、両手両足がガラ空きになったその瞬間、敵の露わになった腹を狙い、銃を放つ!
が、空中で体を器用に捻らせ、避けられた!
「馬鹿ぁ!」
「ごめ……グボァ!」
避けた敵は一目散にこちらに近づき、押し倒した!
胸を右前足でしっかりと押さえつけられ、左前足の鋭い爪で顔面を襲う!
「舐めんなッ!」
絶対命中位置に迫っている怪物の心臓を狙い、銃を放つ!
が、人差し指に力を入れた時にはもうすでに敵は離れていた。
何もない空間を銃弾が駆け抜けた。
「すばしっこいなコイツ……ウゼェ!」
「ちょっと! ちゃんと反応してよ!」
「お前だって一発も当ててないだろうが!」
残りの弾は1発。
敵は全く疲れているようには見えない。
さて、どうするか……
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