第11話
「会社をクビになり恋人に捨てられ、いっそ遠くに逃げようと考えましたがそんな時父から電話が来ました」
『明日迎えに行く、逃げても無駄だ、何処に逃げても探し出してやる、お前は…惨めに這いつくばって生きていかなければならないんだからな!』
そう高笑いする父は常軌を逸していた。鈴香は父が悍ましい怪物に思えて、仕方がなかった。こんな奴とはもう関わり合いになりたくない、と。
「…このまま連れ戻されて道具のように使われるのはごめんだと、死ぬことを選びました。その前にこれまで付けていた日記やら遺書を、会社の先輩に送りました。週刊誌に売るなり何なりして欲しいと。先輩は正義感が強かったので、恐らく義憤に駆られて父達を地獄に落とすために行動してくれると、思ってます」
鈴香は喋り疲れた喉を潤すためにお茶を一口飲む。
「…これが、私がこの国に来た経緯です」
クリスは顰め面で相槌を打ちつつ、じっくりと鈴香の話に耳を傾けていた。はーー、と大きく息を吐く。
「聞けば聞くほど、嫌悪と軽蔑と怒りしか湧いてこない連中ね。地獄に落ちて永遠に炎で焼かれ続ければ良いと思うわ。というか、スズカがこっちに来たってことは向こうでは失踪したことになってるんじゃない?」
「…あ、確かに」
スマホも財布も通帳も、生活に必要なものは全て部屋に置きっ放しのままだ。恐らく連れ戻しに来た家の者が鈴香が居なくなったことに気づき、妹の為に何としてでも探し出そうとするだろう。だが鈴香はこっちの世界に来てしまい、帰る術はない。何も持ってない鈴香がそのまま数ヶ月、半年も見つからなければ生存してる確率はかなり低いと、判断される。
「遺書を残しているのに本人が行方不明。そもそもの原因は実の家族からの悍ましい仕打ち…スズカが家族に殺されて、その遺体を隠したって疑う人がいても不思議ではないわね」
クリスの指摘にスズカは思ってもみなかったと瞠目した。鈴香は日記に両親や妹、亡き祖父や使用人に至るまで家族から受けた仕打ちを赤裸々に綴っていた。誰もがあの家族が異常だったと、そんな人間達ならば理不尽な命令に逆らっただけ、死を選ぶほどに自分達が追い詰めた娘を衝動的に殺してもおかしくないと、そう思うだろう。遺書を残した鈴香の遺体が発見されず消息不明、そして暴露される伊集院家の
「死に追いやったより、実の娘を殺した疑惑の方がセンセーショナルよ。それが権力者となればとんでもない醜聞になるのは間違いない。証拠が無いとはいえそんな疑惑のある一家と関わりたいになりたいと思う人間、いるかしら?例の好色家の老人だって醜聞に巻き込まれるのはごめんだと、手を引くでしょうね。元々傾いていた会社が立ち行かなくなるのはあっという間じゃないかしら」
「あらスズカ、嬉しそうね」
「あの人達が転落して行く様を想像したらつい…引きますよね。家族の不幸を願うなんて」
しかしクリスは首を振り、「引かないわよ〜」とにこやかに笑う。
「寧ろ、スズカにした仕打ちと比べたら不幸を願うくらい可愛いものよ。もう魔物と変わらないわよね、中身が。そもそも、そいつら何故スズカを虐げてきたの?わたしも親と折り合い悪いから、家族だから必ず仲良く出来るわけないことは分かるけど」
「…物凄く馬鹿げた理由ですよ」
「大丈夫、スズカの家族が性根の腐った馬鹿だって察してるから」
容赦なく鈴香の家族を罵倒するクリスに意外と毒舌だったんだな、と呑気に受け止める。
「私が、祖母の生まれ変わりだと信じ込まれていたことと、その祖母に似ているからです」
「おばあさま?おばあさまにスズカが似ている…もしかして」
クリスは鈴香の言わんとしてることを察し、不快げに眉を顰めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。