第13話 ゴーレムのデザイン

「……こんなに大量の金貨、いいんですか?」


 金貨1枚で庶民が1か月は暮らせると言われている。それが50枚。目の前の光景が信じられず、俺は思わず聞き返してしまった。感覚がマヒしそうだ。


「構わないよ。これだけの素材なら研究にも使えるし、いくつか魔道具にして売ればすぐに元は取れるだろうから」


 羨ましい。いや、俺も稼ごうと思えばスズカたちと一緒なら稼げるんだよな。


「それでリオ君は冒険者なのでしょう? 気に入ったわ。今後、私から直接依頼を受けてちょうだい。もちろん依頼料は弾むよ?」

「すみません。冒険者として活動する気は今のところなくて」

「そうなの? もったいない。それじゃあこれからどうするつもり?」


 俺の返答が意外だったのか、アリシャさんは少し身を乗り出して尋ねてきた。


「ここ、プルソの街から北に半日ぐらいですかね? 山があって森があり、小さな川が流れる場所があったんです。その辺りに家を建てて、この子たちとのんびり暮らそうかと思っています」


 街に戻ってくる途中でちょうど良さそうな場所を見つけていた。

 プルソの街に行くこともできる範囲だし、水と木材が手に入るいい場所に思える。森の調査は必要だけど。


「街じゃなくて外で? それはまた……中々の冒険ね」

「バジリスクも倒せるぐらい頼りになる子たちがいますし。スズカは結界を張れるので、大丈夫なんじゃないかなって。どうでしょうね。アリシャさんは平気だと思いますか?」


 俺がそう尋ねると、アリシャさんは少し考える素振りを見せた。


「どうかな。小さな家ならむしろ安全かも。街ぐらいの規模になると魔王軍の標的になるけれど、個人の家なら見過ごされるだろうし。もっとも普通は、魔物が怖いからわざわざひとりで住もうとは思わないね。……ところでお茶、おかわりする?」

「いただきます」


 空のカップを見て薦めてくれる。天才と聞いて付き合いが難しいタイプなのかと思ったけど、いい人みたいだ。


 すぐにスノウがお茶とお茶菓子を持ってきてくれた。

 カナメたちにもお菓子をあげる。小さい口ではむはむ食べてるのが可愛い。


「……ところで、アリシャさん」


 スノウの動きを見てふと思いついた。


「なに?」

「そのスノウっていうゴーレムはアリシャさんが作ったんですか?」

「もちろん。私の身の回りの世話をさせるためにね」

「へぇ、さすが天才ですね。俺が見たことのあるゴーレムって、もっと岩っぽい見た目でゴツゴツしてたんですが」

「確かにそれが一般的。特に魔術で作るゴーレムはそれで間違いないよ。けれど錬金術師が核から作るゴーレムなら、かなり応用が利くの」


 アリシャさんは自慢のスノウを見て満足げに頷いている。


「かっこいい。いや、スノウは可愛いですね」

「そうでしょう? 身の回りに置くからかなりこだわって作ったよ」


 わが意を得たり、といった表情で何度も頷いている。よし、今だ。


「あの、俺がアリシャさんにゴーレムの製作を依頼することってできますか?」

「あなたが? ……確かに街から離れて暮らすなら、ゴーレムがいると何かと役に立つね」

「そうなんですよ! この子たちで木材をカットしたりはできると思うんですが、重いものを運んだり畑を耕したりするのに、ゴーレムがいたらすごく助かるなって」

「それは間違いないよ。ゴーレムがいれば作業効率は格段に上がるはず。それをこの私に依頼したいというの?」

「はい。お忙しいのは重々承知の上ですが天才錬金術師のアリシャさんなら、きっと凄いゴーレムを作っていただけるんじゃないかと思いまして」


 ちらりとスノウを見ながら言うと、アリシャさんの目がキラリと光った。


「なるほど……。製作意欲が湧くようなことを言ってくれるわ。人里離れた場所で役に立つゴーレム。重作業だけではなく、ある程度の細かな作業も必要。……うん、中々面白いね」


 おお、食いついてくれた! これはもしかしていけるか?


「俺とこの子たちで難しい作業はカバーするつもりです。受けてはいただけませんか?」

「いいわ。引き受けましょう。ところで、バジリスクを倒したということは魔石も持ってる?」

「ありますよ」


 俺はバッグからバジリスクの魔石を取り出す。


「吸い込まれそうな深い緑色……。純度は申し分なさそうね。ゴーレムの核にはこれを使おうと思うんだけど、問題ない?」

「もちろんです! 使い道を探していたのでちょうどよかったです。それで、料金はどれくらいでしょうか……」


 ゴーレムの相場なんてわからない。金貨50枚で足りるだろうか。


「そうね……魔石も用意してくれたし、リオ君に支払った分を全て回収するのも忍びない。金貨40枚でいいでしょう。今から作る予定のゴーレムは、それ以上の価値があると保証するよ」

「本当ですか!? 助かります! 是非それでお願いします!」


 どうせ予想外の収入だし。今後の投資として使っちゃおう。


「交渉成立ね。完成は明日。要望は、大きな物の持ち運びや農作業も可能なゴーレム。他には何かあるかしら?」


 アリシャさんはそう言うと、スノウに紙とペンを運んでこさせた。

 受け取ったアリシャさんは、すぐにサラサラとゴーレムの下書きを始める。


「デザインはこんな感じでどう? 大きさは家の中に入れることも考慮して、小回りが利く2メートルぐらいがいいね。腕はアタッチメントで換装可能にしましょう。細かい作業用と、荷物を運ぶ用とで」


 見せられたデザインはめちゃくちゃメカっぽい。

 スノウよりも、もっとアニメに出てくるような人型ロボットみたいな見た目だ。

 大きさはそれらよりも当然小さいけど、男心をくすぐるロマンの塊のようなデザインだった。


「完璧です! アリシャさんはデザインセンスもあるんですね!」

「そ、そう。ありがとう。密かにこんな感じのゴーレムを作ってみたいと温めていたデザインなのよ」


 ちょっと意外なデザインだけど、むしろいい。

 これはテンションが上がる。ビームサーベルとか持たせたいぐらいだ。



「あ、それともうひとつお願いが……」


 ついでだから材料も相談しちゃおう。俺が必要なものを言うと、


「わかったよ。乗りかかった舟。全部私が揃えます。その分の代金も相談しましょう」


 と請け負ってくれた。


「それじゃ全部用意しておくから明日、同じぐらいの時間に来てちょうだい」



 アリシャさんと別れてからは買い物三昧。手持ちは金貨数枚しかなくなったけど満足だった。

 今後に必要なものは揃ったし、しばらく大金を使う機会はないはず。


 いい酒も何本か買った。

 久しぶりに酒をガッツリ飲みたくてね。みんなのために餌もちょっと高いものを選んだ。

 酒はすぐには開けないぞ。そのうち酒造りもしたいなあ。


 明日受け取る予定のゴーレムの名前を考えながら帰路についた。

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