第3話 剣の稽古
剣術の授業は、俺にとって最も憂鬱な時間だった。
魔法なら多少の素養はある。だが剣など、握ったこともない。
そもそも俺のスキル【記録】は役に立たない、と先生に言われ続けてきた。
けれど今は違う。
――昨日の火球が、偶然じゃなかったと証明したい。
俺の力は、本当に“何でも記録できる”のか。
「次、アレン・クロード」
教官の声が響き、俺はぎこちなく木剣を握った。
周囲の視線が突き刺さる。笑いをこらえるやつもいる。
俺が“最弱”だということは、この学園では常識だった。
対戦相手は、侯爵家の次男坊カイル・グランツ。
剣の天才と呼ばれる男だ。
光沢のある金髪を揺らし、俺を見下ろすようにして口元を歪めた。
「はは、なんだお前が相手か。まあすぐ終わるさ」
笑い声が、周囲からも漏れた。
悔しい。けど、これでいい。
――笑いたければ笑え。俺は、この瞬間を待っていたんだ。
カイルが踏み込む。
流れるような足さばき、迷いのない剣筋。
まるで舞のように美しい一撃が、俺に迫る。
そのとき――視界の端に光が走った。
【剣技を記録しました:グランツ流・初太刀】
脳裏に焼きつく感覚。
身体が勝手に動き、俺の木剣が同じ軌跡を描いた。
――ガキィンッ!
木剣と木剣が正面からぶつかり合う。
衝撃で腕が痺れたが、俺は一歩も退かない。
「なっ……!? 同じ……俺の動きを……!」
驚きの声を上げるカイル。
周囲のざわめきが大きくなる。
それからは夢中だった。
カイルの突きも、斬撃も、次々と【記録】され、同時に俺の体を通して再現される。
まるで鏡のように、俺は彼の剣を写し取り、返していた。
「嘘だろ……! 俺の技が、全部通じないだと……!」
カイルが焦りを見せた瞬間、俺は彼の得意技を模倣し、逆に叩き込んだ。
木剣が弾かれ、カイルの体が土の上に転がる。
静まり返った中庭に、教官の声だけが響いた。
「勝負あり。勝者、アレン・クロード」
汗に濡れた木剣を見つめながら、俺は確信する。
――やはり、偶然なんかじゃなかった。
俺の力は本物だ。
けれど同時に、不安も胸をよぎる。
万能すぎる力は、必ず誰かの目に留まる。
利用しようとする者が現れれば……俺はきっと、狙われるだろう。
遠くでリリアが心配そうにこちらを見ているのが見えた。
俺は木剣を握り直し、深く息を吐く。
「……大丈夫。俺は、負けない」
夕暮れの光が中庭に差し込み、熱を帯びた誓いだけが心に残った。
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