「あまがみのみこと」第二章:受け継がれし力

子守であの子を癒してから数日が経っても「あまがみ」の記憶の片隅には、


あの夜の出来事がずっとこびりついて離れなかった


月明かりの下で生まれた温かい光、幼子の苦痛を解きほぐし和らいでいき安らかな寝顔そして歌い終えた後に全身から力が抜けていく


あの不思議な感覚あれは夢でも幻でもなかった


確かに起こった現実、一体何だったのだろう気のせいではない


でも、こんなことが現実に起こるなんて、この世に在り得ることなのだろうか


答えを求めるように戸惑いを抱えたまま彼女は母親の妹つまり


「おばさん」の家を訪れた、この人なら、きっと笑ってごまかすことなく耳を傾け真剣に話を聞いてくれる、そう信じ


「あら「あまがみ」こんな時間にどうしたの?」


「おばさん」はいつもの優しい柔らかさを帯びた笑みを浮かべ玄関で迎えてくれる瞳の奥には


どこか見えぬものを知る者だけがもつ静かな深みがあった


台所に入ると木のテーブルに腰を下ろす前に温かなミルクの香りが漂った温かいミルクの入ったマグカップを差し出してくれテーブルに向かい合い差し出された温かいミルクの湯気が立ちのぼるマグカップを両手で包むと指先にじんわりと熱が沁みわたって心臓へと伝わり体が温まるのを感じた


その温もりに背中を押されるように「あまがみ」は少しずつ言葉を選びながら


あの夜の子守で起こった全てを恐る恐る語り始める子どもの泣き声


歌と光と安らかな眠り、そして体から抜けていった不思議な力


一言も落とさぬよう言葉を選び震える声で伝えていく


すると「おばさん」は驚くこともなく、ただ静かに


そして深い水面のような真剣な眼差しで「あまがみ」の話に耳を傾け続けてくれ


その沈黙は否定ではなく深い理解の印だった


「あまがみ」が話し終えると「おばさん」はゆっくりとマグカップを置き


そして遠い昔の記憶を辿り懐かしむように目を細めて瞼を閉じた


そして何かを決意した様に目を開き優しい眼差しでいて


しかし確かな光を宿した瞳で、それは血脈に刻まれた炎の記憶


消えることなく灯り続ける星のようでもあり吸い込まれる様な瞳で「あまがみ」を見つめて話し始める


「そう……あなたも、ついにその時が来たのね」


その言葉に「あまがみ」は息を呑んだ「おばさん」は続ける


「「あまがみ」あなたの「お母さん」にも、同じ力が宿っていたのよ、そしてさらにそのもっと昔から私たちの家系には代々脈々と特別な力が受け継がれてきたものなの、それは苦しむ人の心を鎮め癒す光、人の痛みを和らげ涙を眠りへと変える尊い歌の力、使命なの「あまがみ」あなたもそれを受け継いだのよ」


「おばさん」の声は静かで重くそして温かくしかし揺るぎない響きを持っていた


その響きは呟きでありながら神託のように重く部屋の空気を変えた


「それは苦しむ人の心を癒す、とても特別な力そして尊くも大きな役目でもあるのよあなたも、それを受け継いだのね、「あまがみ」」


「あまがみ」は息を呑む温かいミルクの湯気に揺れる視界がかすむ中で


ただ心は大きく揺れ戸惑いながら話を聞いていた信じられないけれど


なぜか心の一部が「そうだ」と囁く運命の呼び声のような


その言葉を深く理解させる何かがある、あの夜の出来事


自分の身に起こったことが偶然ではない、それが血の流れのように代々受け継がれてきた自分だけの特別であり確かな力、長き伝承の一部だったのだ


「私が……受け継いだ……力……」


呟いた言葉はミルクの湯気と共に夜へ溶けていく


それは未来を告げる微かな響き運命、使命まだ言葉にできない重さが胸に降り積もる、その事実が「彼女」の心に言いようのない重さと小さな灯火のようにかすかな使命感が同時に芽吹き与えていた


「あまがみ」はまだ気づいていなかった自らが紡ぐ歌が


この先どれほどの魂を癒し、また、どれほどの運命を動かすことになるのかを

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