三章

テレビは事件を「社会の病理」として噛み砕いた。大学教授が臨床的に分析し、元刑事が慣れた口調で推理を組み立てる。視聴者は分かりやすい説明に安堵する。分類すれば恐怖は保管されるからだ。だが分類はまた、処分の口実にもなる。

俺は出勤できなかった。仕事のメールが積み重なる。上司は「一晩落ち着け」と言ったが、落ち着くことなどできない。相沢の言葉が胸の中で増殖し、あの夜の欠片を呼び戻す。人は不確かなものを恐れ、確定を欲しがる。

匿名掲示板の一つに、あるユーザーが封筒の写真を晒したという書き込みが生まれた。スクリーン上でパターンが見出され、顔認証の候補リストが回され始める。どれも決定打ではない。だが噂は噂を呼び、噂は人を追い詰める。

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