第9話 セフレ

私は、この貞操逆転……男女比1:100の世界で、とうとう限界を迎えた。


私はタアラ。普通のOL。年齢は34歳。


性欲を持て余し、でも性犯罪に踏み込めない小心者。


そんな小心者の私が、性欲の処理に苦慮したあげく、とうとう詐欺紛いのアプリに手を出した。


割り切り出会い系マッチングアプリ"サンタマリオ"。


このアプリには、ある噂がある。


女ならば誰でも抱いてくれる男が登録していると───。


このアプリの利用には、いくつかの契約を承認しなくてはならず、その面倒くささが敬遠されている。


「子供が出来たら、その親権は男の方にある? なんでこんな契約を事前に?」


この貞操逆転の男女比1:100世界では、ありえない契約。


私は疑問を持ったが、ヤりたいばかりに、その契約を承認した。


男とヤれるなら、私なんかどうなってもいい。レイプ犯罪には踏み込めないけど。


その時は性欲の暴走に、理性と正常な判断力を失っていたので、いくつもの契約内容を、ろくに確認もせずに盲目的に承認していった。


そうしてマッチングが叶って、相手に会う初日。


美麗な王子さま系美少年と会った。まるで都合のいい夢のよう。


夜の繁華街、いかがわしいホテルのある街。


「初めまして、クロです。タアラさんですね。さっそく行きましょうか」


私は、限界処女のオタク。


クロくんの言われるままに、ラブホの入口をくぐった。


脳と心臓は、爆発寸前。


ろくに思考なんかしていない。


部屋に入ってクロくんがシャワーを勧めてくれたが、性欲を暴走させた私は、野獣のようにベッドにクロくんを押し倒して股がり、クロくんのクロくんを私のはらの中に咥え込んで乱暴に腰を振った。濡れそぼった私のアソコはすでに温まっていて、事前準備なんか微塵も必要なかった。


この貞操逆転の男女比1:100世界では、弱く守らなくてはいけない男を気遣う余裕なんか吹き飛んで、ただ自分勝手な劣情を満たすための乱暴な性交をクロくんに強要した。


これだから拗らせた限界処女はダメなんだ。


自嘲するが、ヤってしまったことは覆せない。


ヤった後で、土下座よ土下座。


私は、誠心誠意、クロくんに謝った。


終夜ヤりまくった後の土下座など、どれだけ言葉を尽くそうと、なんの意味があるのか?


それでもクロくんは言ってくれた。


「大丈夫だよ。俺、タアラが好きだよ」






……天使?






私とクロくんは、次に会う約束をして別れた。


お互いの素性は分からない。


本名も連絡先も知らない。


初めて会って、ろくに会話もないまま体を重ねた。


まるで、ティーンズ小説のセフレみたい。


クロくんは、私の最低な劣情を受け止めてくれた。


私はというと、まるで猿のように腰を振って、乱暴に腰を打ち付けていただけだ。


つまり私は、クロくんに乱暴した。


クロくん、痛かっただろうなぁ。


最低な女だ。


その最低な女の私にクロくんは言った。


笑顔で、「大丈夫だよ」と。


それでも、私が好きだよと───。


クロくんは、体で。


その上、心で。


私を受け止めてくれた。


優しさで、私を受け入れて包んでくれた。


私は言い知れない多幸感で、全身が震えた。


クロくんとの逢瀬は月1回が月2回になり、すぐに月4回……毎週になった。


それでも満足できなくなって、同棲して毎日ヤった。


避妊?


そんな余裕なんか吹き飛んでいた。


夢中でクロくんを貪った。


仕事?


クロくんが、上手に私をコントロールしてくれたので、毎日仕事に行けた。クロくん、女をその気にさせるのが上手い!


私は、妊娠できないと言われた劣等遺伝子の所持者。


なのに、妊娠した。


望外の幸運に、両手を上げて喜び跳び跳ねた。


でも───。


「親権が父親……クロくんにあるの!?」


私は、自分が産む子供の親になる権利を持っていなかった。


そういう契約だったのだ。完全に忘れてた。


絶望する私に、クロくんが申し出てくれた。


「俺と結婚すれば、子供の親になれるよ」


だから結婚しよう。


そう言ってくれた。


私の返答は、言わずもがな。


こうして、私は愛する子供と愛する夫の両方を手に入れた。


その後、私は、こんな最低な女を受け入れてくれたクロくんという天使に、尽くす毎日を送っている。


それは、まるで天国のような幸せな毎日だった。


私は今、幸せです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る