第15話 押しに弱いエルフ
現在、私とシルトくんは工房のテーブルで向かい合っている。
一応、相手はお客さんなので例のドクダミ茶を出してみた。クロエさんには不評だったけれど、シルトくんは溺れるように一気飲みしてくれた。
味わうというよりも緊張を紛らわせるための行動っぽかったけれど。
「えっと、弟子になりたいの? 何で?」
私はおずおずと口火を切る。
正直、弟子と言われてもピンと来なかった。
「僕、ルカ様の魔具のおかげで怪我が治りました。あんなすごいことができるなんて思ってもいなくて、憧れちゃって……!」
『主の魔具は折り紙付きだからな』
ウィリアムがしゃべった瞬間、シルトくんがびくりと震えた。
こら、ややこしくなるから静かにしてて。
「猫がしゃべった……!? 噂は本当だったんだ……」
「噂って?」
「ルカ様は、しゃべる猫を使役する神様なんだって。もしルカ様の機嫌を損ねたら、猫に食べられちゃうって……」
「ちょっと待とうかシルトくん。後半は誰が言い出したのかな?」
「こ、工房に行ったことがある村の人が……」
あの土下座ブラザーズのうちの誰かか。
情報の真偽を確かめにくい原始的な社会では、噂に尾ひれがつきやすいのだろう。
ウィリアムも人食い猫呼ばわりされるのは心外だろうから、訂正しておかないとね。うん、年下相手ならきちんと言える気がする。
「シルトくん、それ間違いだからね? 村の人にも言っておいてくれると嬉しいな」
「は、はい」
「それで、話を戻すけど……」
私はちらりとシルトくんを見つめた。
耳まで真っ赤になってしまっている。
か、可愛い……けれど、私には弟子をとるつもりは毛頭ない。
これからも一人で工房を続けていくつもりなのだ。長命エルフなので後継者を育成する必要もないし。
「ごめんね、シルトくん。弟子をとるつもりは……」
「お願いしますお願いしますお願いしますっ!」
「いや、あの……」
「僕も魔具を作りたいんです! 村のためになることをしたいんです!」
「だからね、その……」
「僕、ルカ様に憧れてるんです! ルカ様みたいなすごい魔具師になりたいんです! だから僕を弟子にしてください、小間使いでも何でもします! 泣き言は絶対言いません! よろしくお願いしますっ!」
「…………」
やばい。
顔がにやけてきた。
ブラック企業時代、私は周囲の人間からゴミのように扱われてきたのだ。
誰かから尊敬の念を向けられることに対し、耐性が全然獲得できていない。
簡単に言えばめっちゃ嬉しい。自己肯定感がアップしてくる。いわゆるメサイアコンプレックスというやつだろうか。
……まあ、シルトくん必死だし? めちゃくちゃ誠実にお願いしてくれてるし? 私がシルトの師匠になってあげなくちゃ、この子の夢は叶わないし?
ちょっとくらいは、いいんじゃないかな?
「……じゃあ、弟子にしちゃおっかな」
シルトくんの表情が、向日葵が咲いたように輝いた。
こうして私に弟子が誕生してしまった。
『主、ちょろいな……』
やめてください。
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