第6話 原始的な肉じゃが


「すべては手に入らなかった……」


 少しだけしょんぼりしてしまった。

 お金が足りないのではなく、単に商品のラインナップが薄いのだ。


 ファザール村は農耕・牧畜によって成り立っている集落だ。肉や野菜は多少あったが、調味料の類は少量の塩しかなかった。しかも馬鹿高い。


 月に1度、行商人が足りない物資を運んできてくれるらしいけれど、今日はたまたま行商人が来る直前だったらしい。

 店主のおばさんからは、「他の品が欲しけりゃ日を置いて来な」と言われてしまった。


 とはいえ、肉と塩、野菜が手に入っただけでも大満足だ。

 私はえっちらおっちら工房に戻ってくると、さっそく料理を開始した。


 ブラック企業時代はコンビニ弁当か、インスタントラーメンばっかり食べていた。料理をする時間なんかあるはずもなく、自宅のガスコンロには埃が被っていたのを覚えている。


 だけど、今の私は自由だ。

 時間は無限大、お金も無限大、文句を言ってくる人もいない。

 食材も無限大……とは言いがたいけれど、そこは創意工夫で何とかするしかない。


「よし。今日の晩ご飯は肉じゃがだ」


 買ってきた牛肉、約300グラムを食べやすい大きさに切っていく。

 あとは野菜類だ。

 ファザール村で手に入ったのは、ジャガイモと葉ネギ、そしてニンジンである。

 正確には違う種類なのかもしれないが、見た目が似ているのでたぶん美味しく食べられるはずだ。


 野菜類も適度な大きさにカットし、牛肉と合わせて鍋の中へ。

 塩を溶かした水を加え、沸騰するまで火にかける。


 本当はみりんやコンソメとかを使いたかったけれど、ないものは仕方ない。そのうち自分で開発することも視野に入れないとね。


「うおお……! おいしそう……!」


 そしてしばらく煮れば、あっという間に完成だ。

 イトールカ特製、塩だけ肉じゃがである。


 ほかほかと湯気が立つのを見ていると、自然にお腹がぐーぐー鳴ってしまった。

 お皿に盛りつけ、テーブルのほうへ持っていく。

 いてもたってもいられなかったので、「いただきます」を言ってからさっそくスプーンを握った。


 牛肉をすくい、口に運んでみる。

 その瞬間、じゅわっと旨味と塩味が溢れ出した。


「おいしい。おいしい。感動だ……」


 涙すらこぼれる。

 久方ぶりに味わった肉がうますぎて、昇天しそうになってしまった。


 いやだって、エルフの里では野菜ばっかりだったんだよ? 肉はタブーみたいな文化があるせいで、あいつら草しか食べないのだ。

 私も誇り高き(笑)エルフの一員だったので、生まれてこの方ずっと強制ヴィーガンをやらされてきた。


 でも今の私を止める者はいない。

 思う存分、肉に食らいつくことができる。


「自由最高!」


 私はスプーンを高く掲げ、笑みをこぼした。魔具が売れ、稼いだお金で食事にありつくことができたのだ。

 私のスローライフは今日から始まったといっても過言じゃない。


 そうと決まれば、お祝いにたくさん食べなくちゃね。

 私は一心不乱に肉じゃがを掻き込むのだった。

 米が欲しいけど、贅沢は言っちゃいけないよね。


「……ん?」


 その時、窓の外で何かが動いたような気がした。

 しばらく見つめてみたけれど、それ以降何らかの気配は感じられない。窓の向こうには、草木が風に揺られている景色が広がっているだけだ。


 まあいっか。

 今はおいしいご飯を賞味するのが先だ。

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