長命エルフの千年工房 ~田舎でのんびり魔具を作ってるだけなのに、いつの間にか神様扱いされていた~
小林湖底
第1話 工房のエルフ
「お、できたできた」
私の目の前にあるのは、長さ1メートルほどの杖である。
材質は
ちなみに使用した魔石は基本10色すべてだ。魔力が雀の涙しかない私でも、この杖を振れば炎でも雷でも自在に操ることができる。
私は黒光りする杖をまじまじと見つめ、ほうと溜息を吐いた。
最高だ。快感が全身を貫き、思わず震える。
私が今まで作ってきた魔具の中で、いちばんの出来なんじゃないだろうか。
もちろん、どの魔具にも思い入れはあるが、製作にいちばん時間がかかったのがこれだ。売らずに自分で使うとしよう。うん。
「記念すべき10作目の魔具。ちょうど10種類の魔法を使えることだし、〈
錐を握りしめ、〈十種杖〉の柄の部分に小さく文字を彫っていった。
イトールカ10 十種杖
イトールカというのは製作者、つまり私のフルネーム。
10というのはシリアルナンバーだ。
私の工房で作られた10番目の魔具ということを意味する。
私がこれまで作った魔具には、必ずシリアルナンバーを刻んであった。
ルンルン気分で〈十種杖〉を掲げてみる。
軽く振ってみれば、火花がパチッと輝いた。柄のところについたダイヤルを捻り、再び振ってみる。すると今度は杖の先端からそよ風があふれる。
ダイヤルを回すことで、対応する魔石と威力を調整することができるのだ。
私って天才じゃね? こんな魔具、今まで誰も開発したことないよね?
「ふふ……工房も充実してきたね」
私は作業場から離れ、店頭のほうへと歩いていく。
木製の台の上に置かれているのは、私がこれまで製作した9個の魔具だ。
故郷の里を飛び出してから3か月、私の魔具師としての腕はそれなりに磨かれてきた。辺境で工房を営み、スローライフを楽しむという夢にも近づきつつある。
だけど、頭を悩ませる問題が1つ。
「まあ、お客さんは来ないんだけどね……」
何を隠そう、これまで作った魔具は1個も売れていなかった。
工房の立地が悪すぎるせいだ。
すぐ背後には鬱蒼とした森が控え、最寄りの村まで徒歩で30分もかかる。
当然、村人はおろか旅人すら立ち寄ることはない。
人が苦手だからと静かな土地を選んで開業したけれど、根本から間違っていたのかもしれない。
一応、自給自足の生活は辛うじて成立している。
川で魚はとれるし、食べられる野草の区別もつくようになった。
だけど、生活レベルはとんでもなく低い。
現代日本という豊衣豊食の時代を生きてきた私にとって、ファンタジー世界でのサバイバルはさすがにきつかった。
「お腹すいた……」
ぐう、と腹の虫が大合唱する。
ちゃんとした料理が食べたい。
最寄りの村では、祭りの日とかに肉料理が提供されるらしい(様子見で立ち寄った際に盗み聞きした)。
私も久々に肉が食べたかった。
だけどお金がないから買うこともできない。
そろそろ魔具、売れてほしいよね。
いや本当に。
巨大な葉っぱで作ったカーテンを開け、窓の外を眺める(もちろん窓ガラスなんてものはない)。
澄み渡るような青空はきらきら輝いていて、現代日本で生活していた時と何も違わないように思えた。
だけどここは、紛れもないファンタジー世界なのである。
料理も基本的においしくない。衛生観念も発達していない。魔物とかいう化け物が出るので、人の命が簡単に散らされる。
「どうしてこうなった……」
溜息を吐き、天空を流れていく雲を目で追う。
事の発端は、いわゆる神様の
私は静かに、これまでの出来事を反芻し始める。
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