第十一話 出会い

「とりあえず入ってくれ。」


私はレイと名乗る、エルフの家に来ていた。

家の外観は木造の大きめな小屋と言う感じだ。

ここまでは事故があったところから一時間ほどで森の中にひっそりとたたずんでいるような家だった。

外には薪割り斧とまとめられた薪が置いてあり、獣の首を切り落とした斧も近くに置いていた。


王城の中では魔道具で常に室温は過ごしやすい温度へと変えられていた。家の中には暖炉などがあるのだろうか。



「お邪魔します」


「そうだな、ここにかけ、 おお!ただいまただいま」


「いい子にしてたかぁーグレイ」


レイはテーブルの椅子を指さし、何かを伝えようとするがそれは黒い毛皮に阻まれる。


「ワンッワンッ!」


狼だった。

まだ小さかった。

でも傷跡があって

一目で誰かにやられたってわかる大きな傷だった。

でもこの子は元気そうで楽しそうで嬉しそうだった。


なんだか私と似ている気がした。


その瞬間、今までの苦労が全て報われた気がして、脱力感で体が埋め尽くされた。

それなのに体はこわばって上手くしゃべることができない。

嗚咽は止まらないし、目の前はもうぼやけて良く見えない。

でもこれは、これだけはしっかりと言わないといけない。


「助けてくれて、ありがとう」


「別にいいんだ。 まだ小さいガキが、死にそうになってんだ、助けなかったらエルフが廃るってもんだぜ」


レイは頭をぼりぼりと搔きながら照れくさそうに言った。


まだ嗚咽は止まらないが、どこか心が軽くなった気がする。


グレイと呼ばれた子狼が私の傍に寄り顔をなめてくる。

少し獣臭かったけど、暖かかった。


「仲良くなれようだな。 こいつはグレイ。二月ほど前に森で拾ったんだ。狩人の罠にかかっててな」


まぁ、お前と似たようなもんだ。

と、付け加えながら彼は言った。


「それより、お前の部屋はもう用意してある。っても空き部屋だけどな。でも掃除はしてあるし、必要な物は一通り揃ってるぜ」


「ありがとう。でも本当にこんなに良くしてもらっていいのか?」


「だから気にするなって。 あと呪いのことだがな、明日じっくり教えてやるから今日は部屋見て、飯食って寝ろ」


「後で足首に包帯も巻いてやる」


「えっ?」


足首を見ると赤く腫れていた。

アドレナリンで気が付かなかったが、どうやら捻挫をしていたらしい。

だから肩に私を抱えたのか。


「うん、ありがとう」


「ああ、部屋は二階だ」


「運んでやろうか~?」


ニヤつきながらこんなことを言ってくる。


「私、炎魔法を使えるんだ」


「冗談です」


「よろしい」


この小さい空間が笑いであふれる。

なんだか懐かしさと新鮮さを同時に味わえた。そんな気がした。


上るたびに少し軋む階段を上がっていく。


その部屋は、王城にあった部屋よりも狭く、埃っぽく、質素であったが

温かみはあった。

ここでは誰も私を避けない。

逃げない、脅かさない。


でもここも早いうちに出ていかないといけない。

今までも私に力を貸してくれた人や助けてくれた人はいた。

オーレタリアと聖職者以外にも。

けれどその二人以外は、体調が少しでも悪くなると私のせいだと決めつけ、蔑み、逃げ出した。

仕方ない。


私に彼らを責める権利はない。

だって実際私のせいで体調が悪化したのかもしれないから。


彼らは常に私のことをかわいそうなものとして見る。

同情の目を向ける。

別にそれが嫌なことではない。

陰口をたたかれるよりは何百倍もマシだ。


でもレイもオーレタリアも聖職者も私を普通の人間のように扱ってくれる気がした。

居心地が良かった。


でもそのせいでオーレタリアたちは死にかけた。

明日には出ていこう。

これ以上居てはまた同じことを繰り返してしまう。


「おい、飯にしよう。 今日は腹減っただろう」


「うん、今から行く」


また階段を一歩一歩おりていくうちに食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。


「料理できたんだな」


「ああ、俺は独り身だからな、炊事洗濯家事全般何でも出来なきゃいけないんでね」


私の目の前においしそうな焼肉が置かれる。

無論、あっちの焼肉ではない。ステーキと言った方が良かったかもしれない。


「い、いただきます」


ナイフで肉を一口大に切り、フォークで口元まで持って行く。


口に入れた瞬間、肉汁があふれ出し幸せな気分になった。

香辛料もいい具合に効いていていくらでも食べられそうだ。


「これって何のお肉?」


「お前を食おうとした奴の肉」


これもしかしてあの獣の肉?

人を食べているのに。


吐き気を催しそうになる。


「安心しろ、胃袋は除去してるし、おそらくあの獣は今日初めて人を襲った個体だ」


「なんでそんなことが分かるの?」


「俺は鼻が利くんだ。耳が大きいけどな」


「なるほど、そんなものか」


いつまでも気にしていても仕方がない。

人の成分が一ミリも入っていないのであればただの肉だ。


そういえば、オーレタリアが体調を崩してから食事がおいしかったという記憶がない。

人に作ってもらえるなんて考えたこともなかった。


「おいしい、おいしい。 おいしいよ」


「ゆっくり食え、肉は逃げないんだから」


私は久しぶりに食事を楽しんだ。

____________


あの子、肋骨に頬骨が浮き出ていやがった。

最初は分からなかったが、あの護衛の騎士は短剣をもってやがった。

あれはあの子を守ろうとしたわけじゃなくて暗殺するつもりだったんだろう。

騎士にしては毒と血の匂いが濃すぎる。


服からして、おそらく貴族か王族、あの場所だとするとアラルニコス王国か。

アラルニコスの奴何やってるんだよ。

アラルニコス=ヴァンダイン

俺の元悪友でアラルニコス王国の初代国王。

だれも差別されない国を作ってやるとか言ってやがったのに


まぁ、しょうがない。

俺があの子を守って育ててやる。

おそらく王か王妃が呪いの存在を邪魔に思って事故に思わせて殺すつもりだったんだろう。

呪いがなんだ、おそらく俺には効かない。

なぜなら俺はエルフだから。


___________________


あの部屋で寝た私は久しぶりに悪夢を見ることがなかった。


「おはよう」


しかし、返事はいつになっても帰ってこない。

まさかもう呪いの効果が?


しかしその疑問は一瞬で払拭されることになる。

外からレイの声が聞こえてくる。


「マジかよ!」


「どうしたのレイ?!」


扉をあけ、レイの無事を確認する。


私の前には困惑するレイと血まみれで横たわる白い髪の少年が半分雪に埋もれながら倒れていた。

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