第24話 公爵の領民講座
朝。
昨日の“水と炎の調和祭”の残骸がまだ中庭に散らばっていた。
地面は黒こげ、花壇は消滅、空気に漂うのは焦げパンの香り。
――おはよう、世界。もう滅んでる。
「若様ぁー! おはようございますっ!」
リリィが元気に登場。
エプロンは小麦粉で白く、髪の毛には花びら。
祭りの後処理なのか、もはや花と粉のハイブリッド生命体だ。
「おはよう、リリィ。昨日は大変だったね」
「はいっ! でも楽しかったです!」
「……どの部分が?」
「パンが飛んで、みんな笑ってて!」
「それ笑いのベクトルが違うやつだから!」
セバスが静かにやってきて、紅茶を差し出す。
「若様、旦那様がお呼びでございます。講義を開かれるとか」
「講義……? まさか父上が勉強する気に?」
「いえ、若様が“教える”側です」
「はあぁぁぁ!?」
◇
執務室に入ると、父上が満面の笑みで立っていた。
その後ろには村人たちがずらりと並んでいる。
まるで新入社員研修のような光景。
「アル、よく来たな!」
「……父上、これは一体?」
「領民に“内政の知識”を教えるのだ!」
「え? なんで僕が!?」
「お前はこの一年でよく学んだ。ならば民にも分け与えよ!」
「学んだっていうか、事故で覚えただけなんだけど!?」
リリィが後ろで拍手している。
「すごいです! 若様が先生ですよ!」
「やめて! 生徒の方が年上なんだよ!」
セバスが静かに帳簿を差し出した。
「講義資料でございます」
「本格的に準備されてるぅぅ!!」
◇
広間には即席の講堂が作られていた。
長机の前に立たされ、僕は人生で初めて“教壇に立つ側”を経験した。
「えっと……みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます」
「若様がしゃべった!」
「かわいい!」
「絶対賢いに決まってる!」
「ハードル上げないで!?」
父上が腕を組み、誇らしげに頷く。
「堂々とせよ、アル! 声を張れ!」
「父上の声がでかすぎて、もう誰も僕の声聞こえてないんだけど!!」
リリィが黒板に何かを書こうとして、チョークを粉砕した。
「わあぁぁ! 粉まみれですー!!」
「リリィ、それ筆圧強すぎる!」
「でも、ちゃんと書けましたよ! “ぜいしゅう”って!」
「“税収”の“税”が“滅”になってるぅぅ!!!」
会場がざわついた。
父上だけが爆笑している。
「はははは! 税が滅する! 民は喜ぶぞ!」
「父上、そんな公言やめてぇぇ!!」
◇
講義が始まった。
僕は頑張って説明した。
「税金っていうのは、みんなの生活を支えるために必要なもので……」
「つまり若様が取るんですね?」
「取るって言い方が極端すぎる!」
「若様、それ全部パン代になりますか?」
「ならないよ!!」
リリィが手を挙げて補足した。
「でも若様、パンを配るのも領民の幸せですよね!」
「うん、でもパンを配るのは父上が勝手にやって破産しかけたから!」
「若様! 講義中に暴露しないでぇぇ!!」
セバスが静かに帳簿を開いた。
「現在の予算状況をスライド代わりに」
「現実見せないで! 子供の夢が壊れる!!」
◇
講義の終盤、僕は思い切って話をまとめた。
「……だから、税金やお金は“みんなで守る”仕組みなんです」
「おおー!」
「若様、わかりやすい!」
父上が立ち上がって拍手する。
「素晴らしい! 感動した! 今の話を祝して祝典を開こう!」
「また!? もう祝う体力ないよぉぉ!!!」
リリィが嬉しそうに走り出す。
「パン焼きますねー!」
「やめろー!! 悪夢の再来だぁぁ!!」
セバスが紅茶を飲みながらつぶやいた。
「本日の講義、大成功ですな」
「セバス、それ成功の定義おかしくない?」
こうして、僕の“公爵領民講座”は混乱と笑いのうちに幕を閉じた。
……そして夜にはもう、「講義の記念祭」が企画されていた。
父上の行動力は、本当に経済の敵だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。