第五部「冒険者の街へお出かけ!」

第27話「ユニークスキル・妖狐変化!」

 日曜日。


 ソロモンさんの図書館を皆で掃除してから、また一週間が経った。


 今週も朝から晩まで、皆でプレゼンの準備に追われる日々だった……。


 浅峰あさみねは相変わらず「俺は上司だから」とか言ってふんぞり返っているだけで、ほとんど手伝ってくれなかった。


 僕一応、同期なんだけどね……。


 しかも最近はワーキャンのイベントの大事な時期だとかで、毎日定時ピッタリに帰ってしまった。


 明日の月曜日は部長や課長への中間プレゼン。そして来週は高田マネージャーをはじめとする役員への最終プレゼンだ。


(このままで大丈夫かな……)


 正直、心配は尽きない。


​ ……いや、今日は一週間ぶりの休みだ。今日は仕事のことは忘れよう。


(こんな日はやっぱり、ワーキャンだよね)


 コンと会ってのんびりもふもふして、リフレッシュしよう!


 僕は朝ごはんを急いで食べ終えて顔を洗うと、ベッド脇に置いたフルダイブ型ヘッドギアを手に取った。

 

​ ヘッドギアを装着そうちゃくすると、視界が深いやみに閉ざされる。


 僕はベッドに横たわり、意識を集中させた。


​ ――LINK TO WORLD.


​ フワリと、体が浮き上がるような感覚。瞬間、世界が真っ白な光に塗り潰される――。




​「あっマオ、おはよー!」


​ まばゆい光が収束しゅうそくして見慣れた寝室の景色が広がった瞬間、目の前にいたコンが嬉しそうに出迎えてくれた。


 その純粋な笑顔に、僕の心も自然となごむ。


​「おはよう、コン」


​ 僕は、もう僕よりも大きくなったコンを抱き締め、一週間ぶりのもふもふを堪能たんのうする。


(ああ、いやされるなぁ……)


 ふわふわで柔らかくて、暖かい体毛に顔を埋める感触は、何度体験しても最高だ。


​「ホッホ、目が覚めたようじゃの」


​ コンとは違う、深みのある声が聞こえた。


 振り向くと、ソファにゆったりと腰掛けていた人間大の巨大なフクロウ――ソロモンさんが、穏やかな表情でこちらを見ていた。


​「ソロモンさん! どうしてここに?」


 思わずたずねると、コンが楽しそうに答えた。


「ソロモンさんはね、このお家が気に入ったみたい!」

「うむ。この家はスタイリッシュで最高じゃ。コンに頼んで、しばらく住まわせてもらっとるのじゃ」


 ソロモンさんが満足げに頷く。

 確かにこの家はシンプルながらも機能的で、洗練せんれんされたデザインだ。あとめちゃくちゃ大きい。


​「なるほど……図書館は良いんですか?」


 僕がたずねると、ソロモンさんは胸の羽毛うもうの中に隠れていた水色のオーブを見せて言った。


「図書館には、このオーブですぐに行けるからの。最近読んだ本に『職場と家は分けるべき』と書いてあるのが多かったから、丁度新しい家を探しておったのじゃ」


(そんな知識まで取り入れているのか。さすが森の賢者けんじゃ……!)


 そしてソロモンさんは僕に、改めてお願いの視線を向けた。


「できればしばらくの間住まわせてもらいたいのじゃが、どうじゃろうか?」

「はい。コンが良いなら、僕は全然構いませんよ」


 僕がそう言うと、コンは「やったー!」と嬉しそうな声を上げた。


​「私は大歓迎だいかんげいだよ! ソロモンさんってなんでも知ってて、とっても面白いの!」


​(そういえば、コンはずっとこのお城みたいに広い家で一人だったもんな)


 こうして僕たちの家(お城?)に、新しいもふもふの住人が増えたのだった。


 コンにも良い話し相手ができたみたいで、僕も嬉しい。


 コンの笑顔は、僕にとって最高のいやしだ。

 と、そんなことを考えていると、突然コンがキラキラと目を輝かせながら僕にたずねてきた。


​「ねぇマオ! "お団子だんご"って食べ物知ってる?」

「お団子だんご? 知ってるよ、おいしいよね」


 僕が答えると、コンは目を丸くした。


「えっ、マオ食べたことあるの!? ソロモンさんからすごく美味おいしいって教えてもらって、私も食べてみたいのっ!」


 お団子だんごか。他ならぬコンのお願いだ。できれば叶えてあげたい。


​「……お団子だんごって、どこで買えるのかな?」


 僕がつぶやくと、ソロモンさんがその質問に答えてくれた。


「ホッホ、美味うまいお団子だんごを食べたいなら【ヒノモト城下町じょうかまち】に行くべきじゃぞ」

「ヒノモト城下町じょうかまち? ですか」


「うむ。世界の東の方にあって、さむらいと呼ばれる剣士が多く住むまちじゃ。ワシのオーブでそこまで飛ばしてやろう」


​(さむらいまちでお団子だんごか! なんだかすごく面白そう!)


 ……でも、一つだけ気がかりなことがある。


​「コンって神獣しんじゅうだよね? 冒険者が沢山たくさんいる所に行ったらすごく目立っちゃうけど、大丈夫かな?」

​ 僕の疑問ぎもんに、コンはキラリと目をかがやかせた。まるで何か面白いたくらみを思いついたかのように、得意げな表情を浮かべる。


​「マオ、私に良い考えがあるよ!」

「良い考え?」


 僕が問い返すと、コンは満面の笑みで胸を張った。


​「うん、私のスキル『妖狐変化ようこへんげ』を使うの!」

妖狐変化ようこへんげ?」


 聞き慣れない言葉に、僕は首をかしげた。

 コンがいくつかスキルを持っていることは知っていたけれど、それを詳しく聞いたことはなかった。


​「うんっ、マオにはまだ見せたことなかったね? ちょっと見ててよ!」


​ そういうとコンは嬉しそうに目を閉じて、なにか深く集中し始めた。


 ――すると、フワリとコンの白い体があわい光に包まれ、その光が段々と強くなっていく。


 僕が息をんで見守る中、その光がはじけるように「ポンッ」と可愛かわいらしい音を立て、コンが真っ白なけむりに包まれた。


 けむりがゆっくりと晴れると、僕の知っているモフモフのコンは、そこにはいなくなっていた。


 代わりに立っていたのは──あでやかに流れ落ちた漆黒しっこくの髪に、き通るような白い肌。

 巫女みこの衣装に身を包んだ、超絶ちょうぜつ美人な女の子だった──。

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