第6話「初クリアと命名イベント」

「君、ゴブリンたちの宝物を盗んだの?」

「えっ!? 私、何も盗んでないよ! 森を歩いてたら、急にこの人たちが追いかけてきたの!」


​ 木の上から、涙目の訴えが返ってきた。


​「そうなんだ……? えっと、すみません。あの子は、何も盗んでないみたいですよ?」


​ 僕がそう伝えると、ゴブリンたちは一斉に「えっ」と驚いた顔をする。


​「そうなの……? 近づいたら猛ダッシュで逃げたから、てっきり犯人かと……」

「そうだったんですね。驚いて逃げちゃったみたいです。……できれば、許してあげてくれませんか?」

「うん、わかった。 俺たちの勘違いだったみたいだな。悪かった!」

「「ごめんよー!」」


​ ゴブリンたちはすごく素直に謝ってくれた。


 僕はもう一度、木の上を見上げる。


​「大丈夫みたいだよ。間違えて追いかけちゃったんだってさ」

「!! ……よかったー……!」


​ 子狐は心底ホッとした表情をすると、幹をスルスルと器用に降りてきた。


 そしてまだ少しゴブリンたちが怖いのか、僕の胸に一直線にポスンと飛び込んできた。


​(あっ柔らかい……。それに、すごく温かい)


​ 白い毛もフサフサで、たまらなく気持ちいい。これが、もふもふ……!


​「「ごめんよー、怖がらせて」」

「みんなが怖がらせてごめんね、だってさ」

「……うん。もうしないでね? すごく怖かったんだから……」


​ 僕の腕の中で子狐が小さな声で答える。良かった。無事に助けられたみたいだ。


 その瞬間、僕の頭の中にアナウンスが響き渡った。


《特殊クエスト【ゴブリンの勘違い】を達成しました》

《クエスト達成ボーナスとして、【高難易度交流経験値】を50000ポイント獲得しました》

《経験値が規定値に達しました。キャラクターレベルが 1 から 17 に上がりました》

《ジョブ【通訳】のレベルが 0 から 8 に上がりました》

《ジョブレベルアップボーナス:習得可能なスキルが解放されました。スキル画面を開いてください》

《ステータスポイントを 80 獲得しました》

《称号【ゴブリンの調停者】を獲得しました》

《称号効果:ゴブリン族からの初期友好度が上昇します》


​ 立て続けに流れるアナウンスに、僕は少しだけ面食らう。


 なんかただ話しただけで、レベルが一気に17まで上がったみたいだ。

 それに、称号っていうのも貰えた。


​ アナウンスが終わると、目の前にキラキラしたステータス画面が開いた。


 レベルアップで獲得したらしい【ステータスポイント:80】という文字が輝いている。


 筋力、敏捷性、知力……色々な項目があるけど、どれが何だかよく分からないな。

 あとジョブスキル? も選べるみたいだけど……。


​(あ、こんなところにボタンが)


​ 僕は画面の隅に『オススメ自動割り振り』という便利な項目を見つけた。


​(うん、これでいいや)


​ よく分からないまま、僕はその項目に、そっとチェックを入れた。


《設定を保存しました。あなたの行動履歴に基づき、上昇するステータスと習得するジョブスキルを自動で選択します》

​《ジョブスキル【言霊の響き】を習得しました》

└ 効果:あなたの声に、この世界の相手を無意識に落ち着かせる力が宿ります。




​ ステータス画面を閉じた僕の手は、いつの間にか無意識の内に白い子狐を撫でていた。


(ああー。もふもふ気持ちいいなー)


 子狐もまんざらでもない様子で、気持ちよさそうに目を細めて僕の手に頭をすり寄せてくる。


 すると、僕の腕の中から鈴を転がすような可愛らしい声がした。


​「ねぇお兄さん。あなたの名前は、なんていうの?」

「僕? 僕はマオだよ」

「マオ……。そっか、マオね! 助けてくれて、本当にありがとう!」

「どういたしまして。……君の名前は?」


​ 僕がそう尋ねると、子狐は少しだけ悲しそうな顔でフルフルと首を横に振った。


​「……わかんない。気が付いたら一人で森の中にいたから……。たぶん、名前はないと思う」

「そうなんだ……」

「うん……。そうだ!」


​ 子狐は何かを思いついたように、パッと顔を上げた。

 その黄金色の瞳が、まっすぐに僕を射抜く。


​「マオ。私の名前、考えてよ」

「えっ? 僕が?」

「うん! マオに決めてもらいたいなっ」


​ キラキラした瞳で、そんな風にお願いされたら断れない。


 名前か……白い狐……。うーん、何も思いつかないな。狐だから……


​「……コン、とか?」


​ 僕が恐る恐る口にした瞬間。子狐はピタリと動きを止めた。

 そしてそれまでの嬉しそうな表情から一変、ジッと僕の顔を真顔で見つめてくる。


​(や、やばい……適当すぎたか? 怒らせちゃった……?)


​ 僕が冷や汗を流していると、数秒の沈黙の後、その顔がパアッと花が咲くように輝いた。


​「それ……すっごく良いね! 私、気に入った!」

「えっ」

「私はコン! よろしくね、マオ!」


​ 僕の腕の中から飛び降りた真っ白な子狐――コンは、九つの尻尾をブンブンと振りながら満面の笑みで言った。


​「お、おお……。気に入ってくれて良かったよ。よろしく、コン」


 僕が安堵のため息をついた、その瞬間。またしても僕の脳内にアナウンスが響き渡った。


​《ユニークモンスター【九尾の狐】との友好度が規定値に到達しました》

《命名イベントをクリア。固有名【コン】との絆が確立されました》

《称号【九尾の命名者】を獲得しました》

《称号効果:幻獣・神獣系モンスターからの初期友好度が上昇します》

《称号効果:【コン】と行動を共にする間、あなたの全ステータスに微量のボーナス補正が発生します》


(また称号だ。コンってユニークモンスターなのか)




「……あのー、マオさん?」

「はい?」


 名前を呼ばれてそちらを見ると、ゴブリンたちが何やらソワソワしながら僕の顔色を窺っていた。


​「マオさん……。俺たちの勘違いだったのは分かったけどよ……」

「やっぱり、父ちゃんの宝物が見つからねえんだ……」


​ しょんぼりと肩を落とすゴブリンたち。


 そうか。勘違いは解けても、彼らの問題は解決していないのか。


​「良かったら、僕も一緒に探すのを手伝いますよ。どんな宝物なんですか?」

「本当か!? 助かるぜ!」


​ ゴブリンたちは、パアッと顔を輝かせた。


​「父ちゃんの宝物はな、こーんなに丸くて緑色にキラキラ光る、すげえお宝なんだ!」


​ ゴブリンの一人が一生懸命に両手で丸を作って説明してくれる。


 丸くてキラキラ……なんだろう?  水晶玉か何かかな?


​「よし、じゃあみんなで探しましょうか」


​ 僕がそう言った瞬間、アナウンスが響いた。


​《特殊クエスト【ゴブリンの宝探し】が発生しました。受注しますか?》

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