2-5 真天先輩は胸の描写が気になる

 それから話題はWEB小説に切り替えた。


「例のエロゲ転生小説、昨夜の更新分はすごかったです……! 唯人くんは読みました?」

「一気読みしました。テンポ良くて面白かったです。会話劇がすごく上手いなって」

「あれ、地の文が少ないですよね。唯人くんのは結構書いていますけど」

「ジャンルにもよるんでしょうけど、地の文と台詞のバランスはまだ試行錯誤してるところで……何にしてもああいう書き方も勉強になります」

「ランキング上昇してましたし、あれも書籍化されるかもしれませんね。そ、そうしたらもっと過激な描写が増えたり……? きゃっ☆」


 しかし真天先輩、本当にエロ系もイケる口なんだな。

 学園一秀才の美少女生徒会長が、エロいことになんて興味を持つはずはない……なんていうのもある意味偏見だと思うが。


「ただ、あえて言うならひとつだけ不満があって」

「ん?」

「ヒロインの胸の描写なんですけど……Pカップっていうすごい巨乳ですよね」

「え、ええ」


 昨夜つい調べてしまったのだが、現実にもなくはないサイズらしい。


「重さを気にする描写が全然ないのが、ちょっと不自然かなって」

「ああ……そういえば。俺はそのあたりまったくスルーしてたんですけど」


 すると真天先輩、自分の胸元に目を落とす。


「わたしもPなんてとんでもないサイズじゃないですけど、本当に重いんですからこれ」

「っ……それはその、何と言ったらいいか」

「ファンタジーでもリアリティは大切だっていうじゃないですか。唯人くんもそういうのを書くことがあったら、ちゃんと取材をしないとダメですよ?」


 どんな取材だそれは……。


「実はああいう小説、紙の本ではまだ買ったことがないんですよね」

「実物を持つのは勇気いるでしょうね……俺だってそうですよ」

「うふふっ、唯人くんと一緒なら買いに行けるかも?」

「ほ、本気ですか?」

「唯人くんが差し支えなければ♪」


 昼休みが終わりに近づいてきたところで、真天先輩が聞いてくる。


「ところで唯人くん、週末からゴールデンウィークですけど、小説を書く以外のご予定は?」

「ん……今のところ特には」


 早いもので四月も過ぎ去ろうとしている。書籍化デビューすることが知られて少し騒がしくなった新学期だったが……別の理由でそれ以上の騒ぎになるとはまさか思いもしなかった。


「真天先輩は何か予定が?」

「わたしも特にありません。ですから唯人くんの家に毎日通おうと思うんですが」

「ま、毎日っ?」

「専業主婦の特訓、一生懸命やらせてください♪」


 目をキラキラさせながら俺を見つめてくる真天先輩。


「家の人にはなんて言うんです?」

「普通に友達の家に行くと言いますよ」

「毎日……ですか?」

「羽を伸ばすためのゴールデンウィークなんですから、両親もうるさくは言ってこないでしょう。誰の家に行くのかなんてことも聞いてはきませんよ」

「そういうもんですか……」

「いくら家族でも年頃の娘のプライベートを詮索することは、どこの家でもあまりしないと思います。それにわたし、信頼されていますから。伊達に入学以来、学年トップを維持していませんよ」


 真天先輩は得意そうに大きな胸を張る。ボタンが弾けて飛んできたりしないだろうか。


「……話には聞いてますけど、すごいですよね。普段どんな勉強してるんですか?」

「普通に教科書で予習復習をしているだけですよ。小学生の頃は学習塾に通っていましたが、今は家で勉強するだけです」


 おそらく頭の作りが根本から違うんだろう。うらやましい。


「ともあれ友達の家に行くというなら、ウソにもなりませんから。唯人くんはうちのことなんて何も気にしないでください」


 真天先輩が毎日俺の家にいて、食事その他諸々のお世話をしてくれる――やっぱり俺は前世で徳を積みまくったとしか思えない。


「そ、それじゃあ……お願いできますか?」

「はい! 今のうちから献立を考えておきますからね」


 真天先輩と一緒に生徒会室を出て、チャイムが鳴るギリギリになって自分の教室に戻った。

 ……クラスメイトたちが揃いも揃って、いやらしい目を向けてくる。


「おいおいタダヒト先生、何だその嬉しそうな顔は!」


 はっとなって顔に手をやる。


「う、嬉しそう?」

「自分で気づいてないのかよ。頬がユルユルだって」

「なんなのー、もうラブラブなのー?」

「わー、赤くなってる! 可愛いねぇタダヒト先生」


 首から上の血管が拡張しまくる。鏡を見たらリンゴのようになっているに違いなかった。

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