第13話 セラフィーヌサイド

 セラフィーヌは子爵家の令嬢だが、領地が天災に見舞われたせいであまり経済的に恵まれているとはいえなかった。

 そこに資金援助をするのでと婚姻話を持ちかけたのがガエルだった。

 正直セラフィーヌはこの縁談に全く気が進まなかった。

 別に他に好きな人がいるわけではない。

 ただセラフィーヌの好みが少し他のお年頃の令嬢と異なっているだけ。


 セラフィーヌの初恋はその昔、まだ子爵家が裕福なころに屋敷にいた年配の執事スチュアート。

 両サイドの髪に白髪が交じり出したスチュアートを六歳のセラフィーヌが「お嫁さんになるの」と追いかけていた。

 その執事から始まり父の友人や教会の司教様などなど人生の酸いも甘いも知り尽くしているような渋い紳士たちに心躍らせてきた。

 そう、セラフィーヌは快活で生命力あふれた同世代よりも、落ち着いてすべてを包み込んでくれるような随分年上の人が好みなのだ。

 しかし、そのような年齢の相手にはすでに相手がいるか、恋愛対象にしてもらえないため恋愛に発展することがなかった。

 そのためセラフィーヌはいずれ実家を支援してくれるどこかのうんと年上の後妻でもいいと思っていた。

 そこに持ち込まれた同世代のガエルとの縁談。

 全くもってテンションが上がらなかったのだ。



 とはいえ腐っても貴族。家を守るために政略結婚を受け入れるだけの矜持と覚悟は持っていた。

 誠意をもって嫁ぎ、相手とも真摯に向き合おうと思っていた。

 ただこれまで何か交流があったわけではなく、向こうには何の得もなく逆にデメリットしかない。

 なぜ声がかかったのか少し気になったので社交好きで情報通の友人にクローズ家のことを調べてもらった。

 すると案の定不都合な事実が隠されていたことが分かった。


 クローズ家の嫡男ガエルに長い付き合いの平民の恋人がいるのは有名だという。

 父のクローズ侯爵からは平民との付き合いを反対され、このままでは家督を継がせてもらえないと追い詰められていた。だから貴族令嬢との結婚を焦っていたということだ。

「平民と別れたといううわさが流れているけど、本当はまだ別れていないらしいわ」というのは情報通の友人の談。父親には別れたと言いながら、部屋を借りて住まわせているという。



「やっぱり。そういう理由でもなければ貧乏子爵のうちに侯爵家から縁談なんて来るはずないわよね」

 ため息をついたものの、はっきりした理由がわかって安心する。

 ただそんな情報を得た以上、ハイそうですかと受け入れることはできなかった。

 せめて本当のことを打ち明けて、支援と引き換えに偽装結婚に協力してほしいとでも言ってくれたなら誠実さを少しは感じられたのに。

「本当、最低な方なのね」

 このような手法をとるガエルに対して顔を合わせる前から嫌悪感しかなかった。



 しかし父は支援金欲しさにすでに諾と返事をしてしまい、顔合わせをする日が決まっている。

 父にもガエルの愛人情報を報告したが、きっと結婚までにその平民のことは清算しているはず、どうしても嫌なら断ってもいいから会うだけあってほしいと懇願されてしまった。

 それほど子爵家が崖っぷちという事なのだろう。


 侯爵家から子爵家への縁談。

 顔合わせまでしてから断るなんて失礼な事できないじゃないの。でも領地のためにもう後がないお父様の気持ちもわからなくもない。

 仕方がない、相手方から断ってもらうしかないわ!

 嫌な人間になり切るか、馬鹿なふりをするか。それとも子供が生まれない身体ですけどって言ってみようかな。

 ガエルは喜ぶかもしれないけど、後継ぎの事を考えると同席される侯爵様が許すはずがない。万が一言いふらされてしまっても、もとより後妻を目指しているので問題はない。

 逆に、後継者争いがないだけ後妻のお話がたくさん舞い込むんじゃない? とほくそ笑む。

 破談にするぞとの決意を胸にセラフィーヌは意気揚々と顔合わせに挑んだ。


 しかし、初顔合わせの席でセラフィーヌはピシャーンと雷に打たれたような衝撃を受けた。

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