第28話 正彼女になりたい人と復縁を目指す人その裏で
我が社の新型FMRI検査機器がメディアに乗った事の収拾に医療DX営業本部はその後一週間翻弄された。
テレビだけでなく他のメディアや医学業界紙などからもインタビューを迫られたからだ。
最初広報室長が対応しようとしたが直ぐに営業本部長がストップをかけて全て公式のガイドを見てくれる様にやや強硬姿勢で抑え込んだ。
強硬姿勢に出れたのは後ろに膨大な受注が控えていたからだ。
そして広報室長の責任追及が行われた。行ったのは社内監査部だ。監査部長と数人の部下が広報室に乗り込んで来ると広報室の人間がみんな硬直した。
監査部長が
「広報室長、聞きたい事がある。直ぐに
「わ、私は…」
太った体の両腕を二人の監査部員に摑まれて出行くと六畳位の部屋にテーブルと椅子が一対二で置かれていた。一つ側の椅子に広報室長が座らせられると
「広報室長、一体どういう経緯で無断でメディアに情報を漏らしたのかね」
「漏らしたなんて滅相も無い。私は医療DX営業本部長に問い合わせた上で了承を得たので知り合いのMHKの人間に取材を頼んだのです」
「営業本部長はそんな事は聞いていないと言っている。事実一企本部長の所にメディアに流されたその時に怒鳴り込んで行った」
「そんな馬鹿な。私が営業本部に顔を出した時、本部長はいなくてその時いた金丸君に事の次第を話したところ、いい話だ。自分が本部長と話しておくから話しを進めておいてくれと言われました」
「金丸?金丸大輔か」
「はい」
「ところで社長にも了解を取ってあると剣崎部長に言ったらしいな。社長は何も聞いていないと仰っているが?」
「それも金丸が」
「そうか。ところで君は金丸だけに寄らずに自分で再度本部長や社長に確認しようとは思わなかったのかね?」
「それは…」
§金丸大輔
新型FMRI検査機器をメディアに出した事によってもっともっと売り上げが伸びるだろう。
その立役者が俺だと分かれば、俺の部長職も目の前だ。あの笠木の元カレの剣崎を出し抜くのも夢じゃ無いな。
俺のセクレタリが
「金丸課長。監査室からお呼びです」
「監査室から?」
「はい」
何の様だ?監査室からケチを付けられる事はしていないが。
広報室長が降格して広報室員になり自主退職した。笠木由紀を寝取った金丸は今回の事で懲戒解雇となって一ヶ月が過ぎた。
新しい男でも出来たのか麗子が俺の所に来なくなって一ヶ月が過ぎた。
香坂さんとの金曜日の会食も再開した。午後八時半になり一次会が終わってタクシーに乗せようとすると
「俊樹さん、久しぶりなんです。二次会に行きませんか?」
麗子と会わなくなった俺はそれも良いと思って
「いいですね。行きましょうか」
思い切り嬉しそうな顔をして前まで行っていた青山のバーに行った。
「俊樹さん。私達。もう一年半もお付きしているんですよ。私は心の準備は出来ているんです。俊樹さんも…ねっ」
涼香さんのカクテルを飲むピッチが速い。
§香坂涼香
今日は二次会で酔ってタクシーも乗れない位になって介抱して貰うんだ。その時思い切り抱き着いて後は…。もうそれしかない。
「と・し・き・さ・ん」
彼女が俺の方に寄り掛かって来た。そしてトロンとした目で俺の顔の傍までくると
チュッ。
やられた。俺もウィスキーを飲んでいて動きが鈍くなっていた。そして俺の肩に顔を乗せて来た。
バーテンは無表情のままだ。置いて行く訳にも行かない。家まで送るか。会計を済ませると彼女を支えながらバーを出た。エレベータ迄でもよろめいている。
「涼香さん、家まで送ります」
「やだ、俊樹の家がいい」
「何を言っているんですか。家まで送ります」
「ぷふふっ、私の家、何処にあるか知らないでしょう。それにこんな私を連れて帰ったらお父様はなんていうかしら」
酔っている割には普通に話せるな。
「冗談を言っていないで家に帰りましょう」
「やだ、涼香は俊樹のお嫁さんになるの。ねえ、いいお嫁さんになるから私を貰って」
やはり完全に酔っている。どうしたものか。
エレベータのドアが開いて中に入りドアを閉めると一階を押した。俺の体に思い切り抱き着いて来ている。
小さくない胸が俺に押し付けられて甘い香りが俺の鼻腔をくすぐっている。
このまま行っても良いかという気持ちになったけど、まだ頭の隅に冷静さが残っていた。
「ではこうしましょう。涼香の酔いが覚める迄、喫茶店で待ちますか?」
「俊樹は私の事が嫌いなの?なんでそんな意地悪な事を言うの?私はあなたに抱いて欲しいの。初めてをあげたいの!」
またかよ。なんで、俺の所にはこんな女性ばかりなんだ。しかしなあ。涼香を抱いたら最後、常務はこの人と俺の結婚を薦めて来るだろうな。俺はまだまだ結婚なんて…。
俺が悩んでいるのが分かったのか
「じゃあ、ホテルに連れて行って」
「えっ?」
「そこで私が目が覚める迄傍にいて。抱かなくてもいい。ただ今日は俊樹と離れたくない」
どう見てもなし崩し作戦見え見えだ。
「涼香。気持ちは十分に分かりました。でも今度にしましょう。せっかくあなたと体を合わせるならもっとあなたが正気の時にしたい」
えっ!
今、体がピクッてしたような。
「じゃあ、約束。今から思い切り私と口付けして。それが約束の証。もしさっき言った事が本当なら思い切り口付けして」
どう見ても酔っている様には思えないが、仕方なく彼女の唇に俺の唇を合わせて強く吸った。
そして口の中に俺の舌を入れるといきなり目を見開いた後、目を閉じて思い切り俺を抱き締めて来た。
大分長かったと思う。彼女からも俺の口の中に舌を入れて来てお互いを確認した。そして唇を彼女が話すと
「俊樹、本当にあなたに恋をしたの。私を抱いて。今度でいい。でも絶対に抱いてね。今の口付けは約束の証よ」
「涼香さん」
「タクシーで送って。家を教えるわ」
「分かりました」
午前零時近くに涼香さんを香坂家に送って行った。常務はまだ帰っていなくて助かった。その足で自分のマンションに戻ったけど、ドアの前で誰かが座って居た。
用心深く近づくと
「麗子!」
「俊樹!」
いきなり抱き着いて来て泣き始めた。
「遅いよ。何時間待ったと思っているの。四時間だよ。早く居れて」
「四時間って…」
取敢えず麗子をマンションの中に入れた。
§中西花音
俊樹がテレビに出ていた。有名な医療機器メーカーだ。あの会社の玄関で待っていれば会えるはず。そして誤解を解いてまた前の様に戻るんだ。
§古市優
俊樹の会社が分かった。前の事は私が悪いの分かっている。でも思い切り謝ってもう一度あの関係に戻りたい。
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